判旨
判決において罪となるべき事実を認定し、罰則規定を明示している以上、その前提となる禁止規定をあえて併記しなくとも、適用法令の示置として違法ではない。
問題の所在(論点)
判決において罪となるべき事実を認定し罰則規定を適用する際、その前提となる禁止規定(麻薬取締法12条1項等)を適用法令として示置しなかった場合、刑事訴訟法335条1項に違反するか。
規範
判決書における適用法令の示置(刑事訴訟法335条1項)において、特定の行為を処罰する罰則規定が引用されている場合には、その前提となる禁止規定を別途掲示しなかったとしても、罪となるべき事実の法的性質および適用される刑罰が明確である限り、法令適用の不備には当たらない。
重要事実
被告人はヘロインの譲渡および所持の事実で起訴された。第一審判決は、罪となるべき事実としてこれらの事実を認定し、適用罰条として当時の麻薬取締法64条1項(罰則規定)を掲げたが、同法12条1項(ヘロインの譲渡・所持を禁止する規定)を併せて掲示しなかった。弁護人は、禁止規定の不記載が判例違反および法令適用の不備であるとして上告した。
あてはめ
本件第一審判決は、ヘロインの譲渡・所持という罪となるべき事実を具体的に認定している。その上で、当該行為を処罰する直接の根拠である麻薬取締法64条1項を罰条として掲示している。罰則規定には当然にその対象となる禁止行為の内容が含まれており、禁止規定を別途掲示しなくても、どの法令により処罰されるかは一義的に明らかである。したがって、禁止規定の欠落は判決の結論に影響を及ぼす法令適用の誤りとはいえない。
結論
判決に禁止規定の示置がなくても、罰則規定が掲げられていれば適用法令の示置として適法であり、上告は棄却される。
実務上の射程
実務上、適用罰条の記載は処罰の根拠を示すことが主眼である。構成要件が禁止規定と罰則規定に分かれている場合(いわゆる禁止規定・罰則規定分離型)、両者を併記するのが丁寧ではあるが、罰則規定の引用があれば必要十分な示置がなされたものと解される。答案作成上は、法令適用において主要な罰則規定を優先して示せば足りることを示唆する。
事件番号: 昭和32(あ)2371 / 裁判年月日: 昭和32年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官による論告において、必ずしも個別の具体的な適用法令を逐一指摘する必要はなく、「相当法条を適用されたい」旨の陳述であっても、法律の適用に関する意見の陳述として有効である。 第1 事案の概要:被告人に対する刑事裁判において、証拠調べ終了後、検察官が事実および法律の適用について意見を陳述する際、具…