判旨
控訴趣意書の提出期限後に国選弁護人が選任された場合であっても、被告人が自ら私選弁護人選任を申し出て国選選任の請求をせず、被告人作成の趣意書に基づき弁護人が実質的な弁論を行ったときは、弁護権の不法な制限には当たらない。
問題の所在(論点)
控訴趣意書の提出期限経過後に国選弁護人が選任され、当該弁護人が自ら趣意書を作成・提出する機会がなかった場合に、憲法37条3項の弁護権の侵害となるか。
規範
裁判所が国選弁護人を選任した時期が控訴趣意書の提出最終日を経過した後であったとしても、その遅延が裁判所の責めに帰すべき事由によるものではなく、かつ、公判において選任された弁護人が被告人作成の控訴趣意書に基づき実質的な弁論を行うなど、被告人の防衛権が実質的に保障されていると認められる場合には、憲法37条3項の弁護権を不法に制限したものとはいえない。
重要事実
被告人は、原審から弁護人選任通知及び控訴趣意書の提出最終日(4月23日)の通知を受けたが、自ら「私選弁護人を選任する」旨を回答し、国選弁護人の選任を申し出なかった。被告人は提出期限当日に自ら作成した控訴趣意書を提出したが、結局私選弁護人は選任されなかった。そのため、原審は期限後の5月21日に職権で国選弁護人を選任した。第1回公判において、当該弁護人は被告人作成の趣意書に基づき弁論を行い、被告人も弁護人も何ら異議を述べずに弁論を終結した。
あてはめ
本件では、被告人が自ら私選弁護人を選任すると回答しながら選任を怠り、国選選任の申出もしなかったことが遅延の原因であり、裁判所の責に帰すべき事由はない。また、選任された国選弁護人は被告人作成の控訴趣意書に基づき公判で有効に弁論を行っており、手続全体を通じて被告人の弁護を受ける権利が実質的に害されたとはいえない。したがって、弁護権を不法に制限したものとは解されない。
結論
憲法37条3項に違反しない。国選弁護人の選任が期限後であっても、被告人の不作為が原因であり、かつ実質的な弁論が行われていれば適法である。
実務上の射程
国選弁護人の選任遅延と弁護権侵害が争われる事案での判断指標となる。被告人の帰責性(私選を希望しながら選任しない等)と、選任後の弁護活動の実態(既存の趣意書に基づく弁論の有無等)が考慮要素となる。答案上は、制度的保障としての弁護権と具体的防衛の充足性の観点から論じる際に有用である。
事件番号: 昭和34(あ)48 / 裁判年月日: 昭和34年5月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】必要的弁護事件において、国選弁護人の選任が控訴趣意書の提出期限後となったとしても、弁護人が期限の延長を求めず公判で弁論を行い、被告人の権利行使が実質的に妨げられていないのであれば、直ちに憲法及び刑訴法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は必要的弁護事件で起訴され、控訴審において原裁判所からの弁…