暴力行為等処罰に関する法律一条一項の犯罪は、同条項列挙の罪の特別加重犯であるから、多衆の威力を示し又は数人共同して刑法二〇八条の罪を犯し因つて人を傷害した場合は、刑法二〇四条の罪のみが成立し、同法律一条一項の違反罪は成立しないものと解するを相当とする。
多衆の威力を示し又は数人共同して刑法第二〇八条の罪を犯し因つて人を傷害した場合の擬律。
刑法208条,刑法204条,暴力行為等処罰ニ関スル法律1条1項
判旨
多衆の威力を示し又は数人共同して暴行を加え、よって人を傷害した場合には、刑法204条の傷害罪のみが成立し、暴力行為等処罰に関する法律1条1項の罪は成立しない。
問題の所在(論点)
多衆の威力を示し又は数人共同して暴行を加え、その結果として人を傷害した場合において、刑法204条の傷害罪のほかに、暴力行為等処罰に関する法律1条1項の罪が重畳的に成立するか。
規範
暴力行為等処罰に関する法律1条1項は、同条項に列挙された各罪(刑法208条等)の特別加重犯である。したがって、暴行の結果、人を傷害するに至った場合には、重い結果を包括する刑法204条の傷害罪のみが成立し、同法1条1項の罪を別途構成することはないと解するのが相当である。
重要事実
被告人は、多衆の威力を示し、または数人と共同して被害者A、BおよびCに対して暴行を加え、これにより各被害者を傷害した。原審は、被告人のこの行為について、刑法204条の傷害罪と暴力行為等処罰に関する法律1条1項の違反罪の両罪が成立し、観念的競合(刑法54条1項前段)になると判断していた。
事件番号: 昭和27(あ)2976 / 裁判年月日: 昭和31年12月20日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】複数の税務署員に対し共同して暴行・傷害を加えた場合、傷害に至らない暴行については暴力行為等処罰に関する法律1条1項が、傷害に至ったものについては刑法204条がそれぞれ独立して成立し、これらは併合罪の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人Pおよび共同被告人3名は、共謀の上、上京税務署員7名に対し、各…
あてはめ
暴力行為等処罰に関する法律1条1項は、特定の態様による「暴行」等を加重処罰する規定であり、暴行罪(刑法208条)の特別罪としての性質を有する。本件において、被告人の行為は暴行の域を超えて傷害の結果を生じさせている。この場合、より重い犯罪である傷害罪が成立する以上、その態様が多衆の威力等を用いたものであっても、傷害罪の評価の中に包含されるべきである。原判決が両罪の成立を認めた点は失当であるが、結果として重い傷害罪の刑で処断しているため、判決に影響を及ぼす誤りとはいえない。
結論
被告人の行為には刑法204条の傷害罪のみが成立する。原判決の罪数判断には誤りがあるが、結論において正義に反するとまではいえないため、上告は棄却される。
実務上の射程
暴処法1条は暴行罪の加重規定であり、傷害の結果が発生した場合には傷害罪が優先して適用される(法条競合の関係にある)ことを示した。答案上、傷害罪の成立を確認した後に暴処法1条を重畳的に検討する必要はないという整理に用いる。
事件番号: 昭和27(あ)2976 / 裁判年月日: 昭和31年12月20日 / 結論: 棄却
被告人四名が犯意を共通し共同して判示上京税務署員七名に対し各別にそれぞれ暴力行為等処罰に関する法律一条一項の違反行為を為し因て右署員中三名に対し各別にそれぞれ傷害を与えたような場合には右各被告人に対しそれぞれ四個の暴力行為等処罰に関する法律違反と三個の傷害罪が成立する。
事件番号: 昭和28(あ)1404 / 裁判年月日: 昭和28年10月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】暴力行為等処罰に関する法律1条1項における「多衆の威力」を示した暴行の成否について、事実認定に基づき多衆の威力の活用が認められる場合には同条が適用される。 第1 事案の概要:被告人両名は、多人数で集合し、その多衆の威力を示す態様によって被害者に対し暴行を加えた。第一審判決はこの事実を認定し、被告人…
事件番号: 昭和31(あ)3054 / 裁判年月日: 昭和32年4月25日 / 結論: 棄却
被告人らが株式会社Aと争議中、同会社の組合員数十名とともにスクラムを組んで甲外四名の同会社の女子従業員(いずれも非組合員)をとりかこみ、労働歌を高唱し、ワツシヨ、ワツシヨと掛声をかけて気勢をあげながら、約二〇分間にわたり右同従業員等に対し、押す、体当りするなどの行動を続ける所為は、憲法第二八条の保障する団体行動権の行使…
事件番号: 昭和25(れ)1648 / 裁判年月日: 昭和26年3月13日 / 結論: 棄却
原判示第二の事実によれば、被告人A、Bら一〇名に近い町方青年が、仲間の者を殴つたのは誰かなどと叫び、吊つてある蚊帳を切り落しなどしたうえ、Cを殴打したのであるし、また同第四の事実によれば、被告人Bら一〇名に近い者が、町方青年側として参集し、Dほか二名に対し出刃庖丁を出して指を切れなどとせまり、かつ右Dを殴打したのである…