被告人は株式会社A銀行B支店長であつて、原判示C株式会社の発起人D及び同Eから、本件小切手が、小切手資金の裏付けなくして振出されたいわゆる空小切手であることの情を打ち明けられ、これにより株金の払込があつたものとしてその保管金証明書の発給ありたい旨懇請されて、これに応じたものである以上、預合に応じた罪の刑責を免れ得ないことはいうまでもない。
応預合罪の成立する事例。
商法491条,商法177条,商法189条
判旨
銀行等の役員が、払込資金の裏付けのない空小切手であることを知りながら、発起人らからの懇請に応じて払込金保管証明書を発行した場合には、会社法上の預合罪が成立する。銀行が払込金相当額を会社に対抗できないとしても、預合罪の成否には影響しない。
問題の所在(論点)
資金の裏付けのない空小切手を受領して払込金保管証明書を発行する行為が、預合罪(旧商法第491条、現行会社法第963条1項)に該当するか。また、銀行が払込の不存在を会社に対抗できない場合でも犯罪は成立するか。
規範
預合罪の成立には、払込の仮装を目的として、銀行等の役員が発起人等と通謀し、実際には現金の払い込みがないにもかかわらず、銀行等が貸付け等を行い、その資金をそのまま当該銀行等への預金とするなどして、実質的な払込がない状態のまま払込金保管証明書を交付する行為があれば足りる。この場合、銀行側が払込の不存在を会社に対抗できないという民事上の責任を負うことになっても、刑罰法令の適用は妨げられない。
重要事実
株式会社A銀行B支店長である被告人は、C株式会社の発起人Dらから、提示された小切手が資金の裏付けのない、いわゆる「空小切手」であることを打ち明けられた。その上で、被告人はDらから、当該小切手によって株金の払込があったものとして、株金払込金保管証明書を発行してほしいとの懇請を受けた。被告人はこれに応じ、実質的な資金の移動がないことを認識しながら、保管証明書を発給した。
事件番号: 昭和34(あ)903 / 裁判年月日: 昭和36年3月28日 / 結論: 棄却
商法第四九一条前段の預合とは、同法第四八六条第一項に掲げる者が株金の払込を仮装するために、株金払込を取扱う機関の役職員らと通謀してなす仮装行為をいうものと解すべきである。
あてはめ
被告人は、本件小切手が空小切手であり、払込資金としての実体がないことを認識(情を打ち明けられ)していた。それにもかかわらず、発起人らからの懇請に応じて保管証明書を発行している。これは、銀行と発起人が通謀して、名目上の預金を作り出すことで払込を仮装する行為そのものである。たとえ民事上、銀行が会社に対して「払込がなかった」と主張できない不利益(会社法64条2項参照)を負うとしても、それは資本充実を保護するための民事法的効力にすぎず、預合という脱法行為自体を否定する理由にはならない。
結論
被告人の行為は預合罪を構成し、有罪となる。銀行が会社に対して対抗し得ない立場にあることは、犯罪の成否に影響しない。
実務上の射程
本判決は旧商法下のものだが、現行会社法963条1項の預合罪においても同様に機能する。預合罪が成立するためには「預け合い」の形式(貸付と預金のリンク)が典型だが、本件のように空小切手を利用した仮装であっても、銀行側が通謀して証明書を発行すれば、同罪が成立することを示す射程を有する。
事件番号: 昭和41(あ)961 / 裁判年月日: 昭和42年12月14日 / 結論: 破棄差戻
増資にあたり、株式引受人の会社に対する債権が真実に存在し、かつこれを弁済する資力が会社にある場合には、会社が株式払込取扱銀行から金融を受けて株式引受人に対する債務を弁済し株式引受人が右弁済金を引受株式の払込金に充当するという払込方法がとられたとしても、直ちに商法第四九一条の預合罪および応預合罪が成立するとはいえない。
事件番号: 昭和31(あ)2109 / 裁判年月日: 昭和35年6月21日 / 結論: 棄却
一 商法第四九一条後段の応預合罪は、株金払込取扱期間の役職員が同法第四八六条第一項に掲げる者と通謀して株金の払込を仮装する行為をいう。 二 銀行の支店長甲が株式会社の設立発起人乙と通謀して株金払込を仮装するため、その方法として同銀行支店から預金者丙に融資しその金員を設立登記完了まで乙に貸与することを丙に承諾させた上、丙…
事件番号: 昭和30(あ)1934 / 裁判年月日: 昭和35年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧商法における「預合」とは、発起人等が株金払込を仮装するために払込取扱機関の役職員と通謀してなす偽装行為をいい、一方で「見せ金」は役職員との通謀を伴わない点で区別される。 第1 事案の概要:A株式会社の発起人である被告人両名は、真実の株式引受人からの払込がないにもかかわらず、設立登記を完了させる目…
事件番号: 昭和31(あ)2217 / 裁判年月日: 昭和33年4月25日 / 結論: 棄却
商法第四八九条第二号違反の罪は同号所定の株式取得の効力如何にかかわりなく成立するものであり、また、株券の発行前たると否とを問わないものと解すべきである