原決定が「所論主張のような事由により錯誤に陥り正式裁判の申立をしなかつたとしても、単に検察官の一片の言辞を軽信し失格問題は起らないものと解し略式命令の当選に及ぼす効果について何等の調査もしなかつたのは明かに過失たるを免れないから、かような事由は刑訴三六二条に該当しないものといわねばならない」とした判断は正当であり、従つて所論違憲論は前提において失当である。
刑訴法第三六二条に該当しない一事例
刑訴法362条
判旨
検察官の言辞を軽信し、略式命令が当選に及ぼす効果について調査を怠ったために正式裁判の申立てをしなかった事由は、刑事訴訟法362条の「自己又は代理人が罪を問うことのできない事由」には該当しない。
問題の所在(論点)
検察官の説明を軽信して略式命令の法的効果を誤解し、正式裁判の申立てをしなかったことが、刑事訴訟法362条(463条で準用する場合を含む)の「自己又は代理人が罪を問うことのできない事由」に該当するか。
規範
刑事訴訟法362条にいう、上訴の提起期間内に上訴をしなかったことにつき「自己又は代理人が罪を問うことのできない事由」があるというためには、単なる不注意や軽信による錯誤があるだけでは足りず、当事者の責めに帰すことのできないやむを得ない事情が必要である。具体的には、法令の不知や効果の誤認が過失に基づく場合には、同条の事由に該当しない。
重要事実
被告人は、検察官の「失格問題(当選への影響)は起きない」という旨の言葉を軽信し、略式命令が自身の当選に及ぼす法的効果について何ら調査を行わなかった。その結果、当選失効の不利益が生じないものと錯誤に陥り、正式裁判の申立期間内に申立てを行わなかった。
事件番号: 昭和31(し)29 / 裁判年月日: 昭和31年7月4日 / 結論: 棄却
一 刑訴第三六二条にいわゆる「責に帰することができない事由」とは、上訴不能の事由が上訴権者またはその代人の故意または過失にもとづかないことをいうものである。 二 被告人が刑訴第三八六条第一号の規定による控訴棄却決定の送達を受けた当時病床にあり、医師より絶対安静を命ぜられていたために異議の申立をすることができなかつたとい…
あてはめ
被告人が検察官の一片の言辞を軽信したことは、公的な判断を仰ぐべき法的効果について慎重さを欠く行為である。また、略式命令が当選に及ぼす影響という重大な事項について自ら調査を全くしなかったことは、社会通念上、明らかな過失があるといわざるを得ない。したがって、正式裁判を申し立てなかったことについて、被告人の責めに帰すべき過失が認められるため、刑訴法362条の事由にはあたらないと解される。
結論
本件の事由は刑事訴訟法362条に該当しないため、上訴権回復(正式裁判申立権の回復)の請求は認められない。
実務上の射程
刑事訴訟における期間徒過の救済(上訴権回復)の厳格性を示す。検察官等の捜査機関による法的不利益に関する説明に依拠した場合であっても、当事者に調査の懈怠や軽信がある限り、救済されないという実務上の峻別基準として機能する。
事件番号: 昭和37(し)34 / 裁判年月日: 昭和37年10月9日 / 結論: 棄却
一、原決定において、申立人が上告申立の手続を依頼したAは、刑訴三六二条所定の申立人の代人に該当するとしたのは相当である(後記註参照)。 二、刑訴規則第二二二条所定の判決結果の通知がなされなかつたという一事をもつては、上訴権回復請求の理由とならないことは当裁判所の判例(昭和二九年(し)第三号昭和二九年九月二一日第三小法廷…
事件番号: 昭和30(し)5 / 裁判年月日: 昭和30年2月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上訴権回復の申立てにおいて、被告人が現実に判決の言渡しを知り得なかったとしても、それが被告人やその代理人の責めに帰すべき事由によらないものでない限り、上訴権を回復することはできない。 第1 事案の概要:抗告人は、被告人が刑の言渡しを現実に知り得なかったことについて、被告人及びその代理人の責めに帰す…
事件番号: 昭和33(し)14 / 裁判年月日: 昭和33年5月27日 / 結論: 棄却
一 確定判決に対する再審を開始するか否かの手続は、憲法にいう「裁判の対審」に当たらない 二 刑訴法第四三五条第六号にいう「明らかな証拠」というのは証拠能力もあり証明力も高度のものをいい、被告人が弁護人に宛てた書信の如きを含まない 三 同条同号の「原判決において認めた罪より軽い罪」というのは法定刑の軽い罪をいい、心神耗弱…
事件番号: 昭和27(し)50 / 裁判年月日: 昭和27年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法362条の「自己の責に帰することができない事由」の存否について、裁判所が期待可能性の有無に言及せずとも、法定期間内に控訴しなかったことが本人の責任によると認定していれば、判例違反には当たらない。 第1 事案の概要:抗告人は、有価証券偽造行使、詐欺、同未遂の各被告事件について第一審判決を受…