原審釧路簡易裁判所は昭和二八年五月六日、被告人Aに対する窃盗傷害被告事件につき二個の窃盗の事実並びに二個の傷害の事実を認定して、これに対しそれぞれ相当法条適用の上傷害罪について刑法二〇四条所定刑中懲役刑を選択し、以上の各罪を併合罪として法定の加重をした刑期範囲内において同被告人を懲役一年六月に処し、五年間右刑の執行を猶予する旨の判決を言い渡し、この判決は上訴申立期間の経過により確定したものであることが認められる。されば原審簡易裁判所は右各傷害罪についてその法定刑中懲役刑をもつて処断するを相当と認めながら、裁判所法三三条三項、刑訴三三二条により事件を地方裁判所に移すことなく、自ら同罪につき懲役刑をもつて処断したものであつて、裁判所法三三条二項に違反するものであること明らかである。よつて右の点に関する非常上告は理由があり、しかも原判決は被告人のため不利益であると認められるから、刑訴四五八条一号により原判決を破棄し、右事件につき更に判決すべきである。
簡易裁判所が裁判所法第三三条第三項の制限を超えて懲役刑を言渡した判決の違法と非常上告
裁判所法33条,刑訴法332条,刑訴法454条,刑訴法458条1号
判旨
簡易裁判所が、法定刑として懲役刑を選択すべきと判断した傷害罪について、管轄を有する地方裁判所に事件を移送することなく自ら懲役刑を言い渡した判決は、裁判所法33条2項に違反し、非常上告の理由となる。
問題の所在(論点)
簡易裁判所が、その権限を超える懲役刑を科すことが相当と判断した場合に、地方裁判所に移送せず自ら懲役刑を言い渡した裁判の適法性が問われた(裁判所法33条2項違反の成否)。
規範
簡易裁判所は、裁判所法33条2項の制限により、原則として禁錮以上の刑を科すことができない。同条3項及び刑事訴訟法332条に基づき、簡易裁判所が取り扱うべき事件について禁錮以上の刑を科すのが相当と認める場合には、決定をもって事件を地方裁判所に移送しなければならない。
事件番号: 昭和32(さ)1 / 裁判年月日: 昭和32年3月26日 / 結論: 破棄自判
裁判所法三三条一項によれば簡易裁判所は窃盗及び傷害の罪について裁判権を有するが、同条二項によつて但書の場合を除いて禁錮以上の刑を科することができないことになつており、傷害罪につき懲役刑を選択し窃盗罪と併合加重をして懲役刑を言渡すことはできないことが明らかである。簡易裁判所がそのような処断を相当であると認めれば同条三項、…
重要事実
被告人は窃盗2件および傷害2件の事実により起訴された。原審である簡易裁判所は、傷害罪について刑法204条の所定刑のうち懲役刑を選択し、窃盗罪との併合罪として加重した結果、被告人に対し懲役1年6月(執行猶予5年)の判決を言い渡し、確定した。これに対し、検事総長が法令違反を理由として非常上告を申し立てた。
あてはめ
原審の簡易裁判所は、被告人の傷害罪について法定刑の中から懲役刑を選択した。しかし、簡易裁判所が禁錮以上の刑を科すためには、裁判所法33条3項および刑訴法332条に基づき、事件を地方裁判所へ移送する義務がある。本件において原審は、移送の手続きを履践することなく、自ら権限外の懲役刑を選択して処断した。これは裁判所法33条2項の定めに明白に違反する手続的違法があるといえる。また、権限外の重い刑種を選択した点において、被告人にとって不利益な誤りであると認められる。
結論
原判決には裁判所法違反の法令違反がある。被告人に不利益な判決であるため、原判決を破棄し、最高裁判所において、傷害罪につき罰金刑を選択した上で改めて懲役1年及び罰金5000円(執行猶予5年)の判決を言い渡す。
実務上の射程
簡易裁判所の刑罰権の限界(裁判権の範囲)を確認する重要な事例である。司法試験の答案作成においては、刑事訴訟法上の「管轄」や「移送」の文脈、あるいは非常上告の対象となる「法令違反」の具体例として、裁判所法の組織的制限を逸脱した判決の効力を論じる際に参照すべき射程を有している。
事件番号: 昭和24(そ)5 / 裁判年月日: 昭和24年9月24日 / 結論: 破棄自判
裁判所法第三三條第二項によれば、簡易裁判所は刑法第二三五條の罪若しくはその未遂罪に係る事件又はこれらの罪と他の罪とにつき刑法第五四條第一項の規定によりこれらの罪の刑を以て處斷すべき事件以外の事件については、禁錮以上の刑を科することができないことになつて居り、又同條第三項によれば若しその制限を超える刑を科するを相當と認め…
事件番号: 昭和29(さ)1 / 裁判年月日: 昭和29年4月13日 / 結論: 破棄自判
刑法二〇四条、罰金等臨時措置法三条によれば、傷害罪の罰金の多額は二万五千円であるから、原判決が罰金三万円を言渡したのは、刑法二〇四条、罰金等臨時措置法三条の適用を誤り、法定刑を超える罰金刑を言渡した違法があるものといわなければならない。そして原判決は明らかに被告人のため不利益であるから、刑訴四五八条一項但書により、原判…
事件番号: 昭和31(さ)2 / 裁判年月日: 昭和31年7月17日 / 結論: 破棄自判
函館地方裁判所は、昭和二九年一二月六日被告人に対する建造物侵入被告事件につき、被告人が昭和二九年五月二四日函館市所在函館公共職業安定所内事務室に侵入した犯罪事実を認定し、これに対し刑法一三〇条、罰金等臨時措置法二条、三条を適用し、所定刑中罰金刑を選択し、被告人を罰金五千円に処する旨の判決を言い渡し、右判決は所論のとおり…
事件番号: 昭和32(さ)9 / 裁判年月日: 昭和35年2月4日 / 結論: その他
酒税法違反の罪につき懲役刑を言い渡した簡易裁判所の確定判決は、裁判所法第三三条第二項に違反するもので、これに対する非常上告は理由がある。