裁判所法三三条一項によれば簡易裁判所は窃盗及び傷害の罪について裁判権を有するが、同条二項によつて但書の場合を除いて禁錮以上の刑を科することができないことになつており、傷害罪につき懲役刑を選択し窃盗罪と併合加重をして懲役刑を言渡すことはできないことが明らかである。簡易裁判所がそのような処断を相当であると認めれば同条三項、刑訴法三三二条の規定により事件を地裁に移送しなければならない。これをしないで傷害罪に懲役刑を選択の上併合加重をした原判決は、裁判所法三三条二項に違反したもので本件非常上告は理由がある。そして原判決は被告人のため不利益であると認められるから刑訴法四五八条一号により原判決を破棄し、右被告事件について更に判決することとする。
簡易裁判所が裁判所法第三三条第三項の制限を超えて懲役刑を言渡した判決の違法と非常上告
裁判所法33条,刑訴法332条,刑訴法454条,刑訴法458条1号
判旨
簡易裁判所は、裁判所法33条2項の制限により、傷害罪について懲役刑を選択した上で他罪と併合加重して禁錮以上の刑を科すことはできず、そのような処断が必要な場合は地方裁判所に移送しなければならない。
問題の所在(論点)
簡易裁判所が、裁判所法33条1項所定の罪(傷害罪)について懲役刑を選択し、他罪と併合加重して禁錮以上の刑を科すことができるか。裁判所法33条2項の制限と、同条3項・刑訴法332条の移送義務の適用の有無が論点となる。
規範
裁判所法33条2項によれば、簡易裁判所は、同条1項に掲げる罪であっても、原則として禁錮以上の刑を科することができない(同項各号に掲げる罪等を除く)。傷害罪につき懲役刑を選択し、他の罪(窃盗罪等)と併合罪として加重した上で懲役刑を言い渡すことは、同項但書の例外に当たらない限り許されない。このような処断を相当と認める場合には、裁判所法33条3項及び刑事訴訟法332条に基づき、事件を地方裁判所に移送しなければならない。
重要事実
事件番号: 昭和31(さ)1 / 裁判年月日: 昭和31年7月13日 / 結論: 破棄自判
原審釧路簡易裁判所は昭和二八年五月六日、被告人Aに対する窃盗傷害被告事件につき二個の窃盗の事実並びに二個の傷害の事実を認定して、これに対しそれぞれ相当法条適用の上傷害罪について刑法二〇四条所定刑中懲役刑を選択し、以上の各罪を併合罪として法定の加重をした刑期範囲内において同被告人を懲役一年六月に処し、五年間右刑の執行を猶…
被告人は窃盗及び傷害の事実により簡易裁判所に起訴された。簡易裁判所は、傷害罪について懲役刑を選択した上、窃盗罪との再犯加重及び併合罪加重を行い、被告人を懲役1年2月に処した。この判決は上訴期間の経過により確定したが、簡易裁判所の刑の言い渡しに関する権限(裁判所法33条2項)の解釈が問題となり、非常上告が申し立てられた。
あてはめ
本件において簡易裁判所は、傷害罪について懲役刑を選択している。裁判所法33条2項は、一定の罪を除き、簡易裁判所が禁錮以上の刑を科すことを禁じている。傷害罪は同条2項但書の例外(同条1項各号に掲げる罪)に含まれないため、懲役刑を選択した時点で、簡易裁判所は自ら判決を下すことができなくなる。したがって、本件では同条3項に従い地方裁判所に移送すべきであったにもかかわらず、懲役刑を言い渡した原判決は裁判所法33条2項に違反する。これは被告人にとって不利益な法令違反である。
結論
原判決を法令違反として破棄する。簡易裁判所の権限の範囲内において、傷害罪については罰金刑を選択した上で、窃盗罪の累犯加重及び併合罪加重を行い、被告人を懲役1年及び罰金5000円に処する。
実務上の射程
簡易裁判所の事物管轄および量刑権限の限界を画する判例である。答案上は、簡易裁判所の権限外の刑を科すことが「法令に違反し、かつ、被告人のため不利益」(刑訴法458条1号)に該当する典型例として、非常上告の文脈や裁判所の管轄・移送の論点で使用する。
事件番号: 昭和24(そ)5 / 裁判年月日: 昭和24年9月24日 / 結論: 破棄自判
裁判所法第三三條第二項によれば、簡易裁判所は刑法第二三五條の罪若しくはその未遂罪に係る事件又はこれらの罪と他の罪とにつき刑法第五四條第一項の規定によりこれらの罪の刑を以て處斷すべき事件以外の事件については、禁錮以上の刑を科することができないことになつて居り、又同條第三項によれば若しその制限を超える刑を科するを相當と認め…
事件番号: 昭和29(さ)1 / 裁判年月日: 昭和29年4月13日 / 結論: 破棄自判
刑法二〇四条、罰金等臨時措置法三条によれば、傷害罪の罰金の多額は二万五千円であるから、原判決が罰金三万円を言渡したのは、刑法二〇四条、罰金等臨時措置法三条の適用を誤り、法定刑を超える罰金刑を言渡した違法があるものといわなければならない。そして原判決は明らかに被告人のため不利益であるから、刑訴四五八条一項但書により、原判…
事件番号: 昭和31(さ)3 / 裁判年月日: 昭和32年1月29日 / 結論: 破棄自判
原審(簡易裁判所)が、本件の窃盗と鉄砲刀剣類等所持取締令違反とを刑法四五条の併合罪と認めた以上、前者につき懲役三年以下を言い渡し、後者につき罰金刑を選択して言い渡すべきものとするならば格別、しからずして、後者につき懲役刑を選択し、重い前者の法定懲役刑に併合罪の加重をした刑期範囲内において被告人に対し一個の懲役刑を言い渡…