被告人が選挙運動者より受領した二万円は法定選挙費用と投票買収資金とを一括し、そのいずれの部分が費用でいずれの部分が買収資金であるかの区別ができない関係において手交されたものであると認定しながら、被告人が右金員中さらに選挙運動者に供与した残りの一万円の内から、すでに選挙ポスター貼りに要した労務者の日当として支出したことを認め、この金員については追徴すべきものではない旨の説示をした判決は、理由にくいちがいの違法がある。
判決の理由にくいちがいの違法がある事例
刑訴法378条4号,公職選挙法221条1項4号,公職選挙法224条
判旨
法定選挙費用と投票買収資金が区別できない不可分の関係で手交された場合、その全額について受供与罪が成立し、追徴の対象となる。被告人の利益にのみ資する理由不備の主張は、上告理由とはならない。
問題の所在(論点)
法定費用と買収資金が不可分の関係で交付された場合、犯罪の成立範囲および追徴の範囲をどのように解すべきか。また、被告人に有利な原判決の違法を理由に被告人側から上告できるか。
規範
性質上、正当な費用としての性格と不法な買収資金としての性格を併せ持つ金員が、それらを区別できない不可分の状態で交付された場合には、その全額について犯罪(受供与罪)の成立を認めるべきであり、没収・追徴の範囲もこれに準ずる。
重要事実
被告人は、Aから2万円を受領した。この金員は、法定の選挙費用としての性質と投票買収資金としての性質を一括したものであり、いずれの部分が費用でいずれが買収資金であるか区別できない関係(不可分の関係)で手交されたものであった。原審は、この2万円全額について受供与罪の成立を認めつつも、追徴の段においては、被告人が選挙ポスター貼りの労務者日当として支出した1,800円を除外して追徴を命じた。弁護人は、この認定の食い違いを理由不備として上告した。
あてはめ
事実認定において、被告人が受領した2万円が法定選挙費用と投票買収資金の区別が不可能な「不可分の関係」にあると認定された以上、その全額に受供与罪が成立するとともに、全額が追徴の対象となるべきである。原判決がその一部(1,800円)を可分なものとして追徴から除外した点には、理由不備または理由の矛盾という違法がある。しかし、この違法(追徴額が少なすぎる点)は被告人にとって不利益なものではなく、むしろ利益となるものである。
結論
被告人が不可分の関係にある金員を受領した以上、その全額について罪が成立し、追徴の対象となる。原判決の追徴額算定に違法はあるが、被告人にとって不利益な主張であるため、上告を棄却する。
実務上の射程
選挙犯罪における買収資金の認定において、正当な名目と不当な目的が混在し区分困難な場合の処理指針となる。答案上は、追徴の範囲の確定において「不可分性」を理由に全額を対象とする論法として活用できる。また、不利益変更禁止の法理に関連し、被告人側から自己に有利な判決の違法を主張することの適格性を否定する際の論拠となる。
事件番号: 昭和30(あ)2307 / 裁判年月日: 昭和30年12月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙運動の報酬と合法的な実費を一括して供与された場合、両者の割合が判明せず区別できないときは、その全額について公職選挙法221条1項4号の供与罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、選挙運動に伴い金員の供与を受けた。この金員には、本来は報酬として禁止される性質のものと、選挙運動の費用(実費)…