酒類の卸売業を営む者が地方の醸造業者から買入れた特級、一級および二級の清酒を混合または格上転用した一升瓶詰に灘の清酒用の王冠用紙、胴張紙、肩張紙および特級または一級清酒たることを表示する証紙を施し、これを灘の銘酒の特級酒または一級酒であるかのように装つて酒類小売業者に販売し、右業者を欺罔してその代金の交付を受けたときは、詐欺罪が成立する
詐欺罪の成立する一事例
刑法246条
判旨
商品の品質や出自が取引の重要事項である場合、その真実を告知せずに販売する行為は詐欺罪の欺罔行為に当たり、買主が代金相当の対価を得ていても同罪が成立する。
問題の所在(論点)
商品の産地や品質を偽って販売した場合において、告知義務違反による欺罔行為が認められるか。また、買主が相応の価値がある商品を受け取っている場合に、詐欺罪が成立するか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)の欺罔行為とは、相手方が処分行為を決定する基礎となる重要な事実を偽ることをいう。取引において、商品の銘柄や品質が代金支払の判断に直結する場合、これらを秘匿し又は偽って商品を供給することは、相手方の錯誤を引き起こす欺罔行為に該当する。また、代金相当の経済的価値を有する物品を交付したとしても、目的物の属性に錯誤がある以上、財産的損害を否定することはできない。
重要事実
被告人らは、灘の銘酒(B酒類食品株式会社の製品)と称して、実際には地方酒を混合または転用した清酒を小売業者に販売した。被告人らは、当該清酒が本来の醸造元から出荷されたものではないことを秘匿し、小売業者に対してその了解を求めることもなく、真正な灘の銘酒であると誤信させて販売を継続した。小売業者はその銘柄を信頼して買い受け、消費者も同様に誤信して購入していた。
あてはめ
本件清酒は、本来の醸造元から出荷されたものではなく、被告人らが地方酒を混合・転用したものであった。清酒の取引において、その銘柄や出自は購入の有無を決定づける重要な事実であるから、被告人らにはこれを告知する義務がある。にもかかわらず、告知せずに真正な銘酒として販売した行為は、小売業者を錯誤に陥らせる欺罔行為といえる。小売業者は銘酒であると誤信して代金を支払っており、たとえ受け取った酒に相応の価値があったとしても、取引の目的を達成していない以上、財産的損害が認められる。
結論
被告人らの行為には詐欺罪が成立する。小売業者が銘酒であると誤信して買い受けた以上、被害がないということはできない。
実務上の射程
実務上、詐欺罪における「財産的損害」が単なる経済的差額の有無ではなく、取引の目的や重要事項の充足性によって判断されることを示す重要判例(実質的個別財産説)として機能する。答案では、ブランド品や食品の産地偽装など、代金と価値が釣り合っていても取引の動機となる重要事実に虚偽がある場合に、本判例を根拠に詐欺罪の成立を肯定すべきである。
事件番号: 昭和27(あ)6498 / 裁判年月日: 昭和28年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪における欺罔行為は、必ずしも被害者に経済的損失を負わせることのみを目的とするものではなく、被害者が真実を知っていれば金品を交付しなかったであろう重要な事項について偽ることを含む。 第1 事案の概要:被告人らは共謀の上、特定の商品や権利の販売において、その性質や価値について虚偽の事実を告げた。…