判旨
窃盗罪における既遂時期は、目的物を自己の実力的支配下に移した時点(取得)であり、共犯者が重量のあるケーブル線を持ち上げて運搬を開始し、一定の距離を移動させた場合には既遂が成立する。
問題の所在(論点)
窃盗罪における実行の着手後の既遂時期、すなわち「占有の移転」が認められるための基準が問題となる。また、監視員が犯行を現認していたことが占有移転の成否に影響するか。
規範
窃盗罪(刑法235条)における「窃取」とは、占有者の意思に反して、財物に対する他人の占有を排除し、これを自己または第三者の実力的支配下に移すことをいう。既遂時期は、財物に対する占有が確実に行為者へ移転した時点(取得)をもって判断される。
重要事実
被告人は、共犯者A・Bと共謀し、炭鉱内に置かれていた鎧装ケーブル線約16メートルを窃取しようとした。被告人自らケーブルを持ち上げ、共犯者らと共に担ぎ出して移動させたが、途中で係員に発見された。一旦逃走したものの、再度共犯者らがケーブルを担ぎ、詰所前を通り過ぎて25メートル離れた場所まで運び、荷作りを行った。なお、窃取着手時に監視員が現場を目撃していたが、犯行を見極めるためであり、窃取に同意していたわけではなかった。
あてはめ
本件では、被告人がケーブルを持ち上げ、さらに共犯者らがこれを担いで元の場所から25メートル離れた地点まで運搬し、荷作りを行っている。この時点で、管理者の占有は完全に排除され、被告人らによる実力的支配が確立したといえる。また、監視員が犯行を現認していたとしても、それは窃取を黙認・同意したものではなく、犯行を見極めるための監視に過ぎないため、占有移転の事実を妨げるものではない。
結論
被告人らによる実力的支配への移転が認められるため、窃盗既遂罪が成立する。
実務上の射程
物件の性質(重量物か否か)や移動距離に着目して既遂を認定する実務上の典型例である。監視者が存在しても「意思に反する」占有移転があれば既遂となり、不可能な犯罪(不能犯)や未遂にとどまるわけではないことを示す際にも有用である。
事件番号: 昭和27(あ)1519 / 裁判年月日: 昭和28年10月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】窃盗罪における実行の着手後の既遂時期について、目的物を設置場所から取り外して自由に屋外へ移動させ得る状態に置いた時点で、占有が犯人の支配内に移ったものとして既遂が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、窃盗の目的をもって、特定の場所に設置されていた物件を、その設置場所から取り外した。その後、当該…