原審の是認した第一審判決が、刑法五六条一項、五七条の適用を誤つて累犯加重をした違法のあることは所論のとおりである。しかし、被告人は本件犯行の外、三個の犯罪を犯し(内二件は本件と同様窃盗である。)ていることは記録上明らかであり、しかも本件犯行は、他の犯罪につき昭和三〇年一月一二日仮釈放せられた後数日にして同年一月二一日行つたものである等、諸般の事情を総合すれば、本件犯行はその犯情甚だ重く、被告人が懲役一年二月に処せられたことについては、上記の違法に拘らず、刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
誤つて累犯加重をした違法が判決に影響を及ぼさないとした事例
刑法235条,刑法56条1項,刑法57条,刑訴法411条
判旨
窃盗罪における既遂時期について、対象物を事実上の支配(占有)下に置いたと認められる場合には、窃盗既遂罪が成立する。また、下級審の判決に累犯加重の適用誤りがあっても、犯情が重く量刑が妥当であれば刑訴法411条による破棄を要しない。
問題の所在(論点)
1. 窃盗罪が既遂に達したと認められるか。 2. 累犯加重の適用を誤った違法がある場合、直ちに刑訴法411条により原判決を破棄すべきか。
規範
窃盗罪(刑法235条)の既遂時期は、行為者が財物に対する他人の占有を排除し、自己または第三者の事実上の支配内(占有下)に移した時点をもって判断される。また、刑訴法411条の職権破棄は、判決に法令違反がある場合であっても、諸般の事情を総合して「著しく正義に反する」と認められない限り、義務づけられるものではない。
重要事実
被告人は、窃盗の犯行に及んだ。第一審および控訴審は、挙示された証拠に基づき、被告人が対象物を自己の占有下に移したと判断して窃盗既遂罪の成立を認めた。なお、下級審判決には累犯加重(刑法56条1項、57条)の適用を誤る法令違反があった。被告人は他の犯罪で仮釈放された数日後に本件犯行に及んでおり、他にも同種の窃盗を含む複数の前科を有していた。
あてはめ
1. 本件では、証拠上、被告人が財物を自己の支配内に移したと認定できるため、窃盗既遂罪の成立は正当である。 2. 累犯加重の適用誤りについては、法令違反が認められる。しかし、被告人は仮釈放からわずか数日で本件犯行に及んでいること、同種の窃盗を含む前科が複数あることなど、犯情が極めて重い。これらの事情に鑑みれば、懲役1年2月という量刑は不当とはいえず、判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
結論
窃盗既遂罪の成立を認めた原判断は維持される。また、累犯加重の適用誤りはあるが、量刑が妥当であるため、刑訴法411条を適用して原判決を破棄することはせず、上告を棄却する。
実務上の射程
窃盗の既遂時期に関する占有移転の基本的判断枠組みを確認する際に活用できる。また、刑事訴訟法上の職権破棄(411条)の判断において、法令違反があっても量刑の妥当性や犯情の重さを理由に破棄を否定する実務上の運用を示す一例として有用である。
事件番号: 昭和28(あ)611 / 裁判年月日: 昭和29年6月29日 / 結論: 棄却
論旨は窃盗既遂の時について原判決の下した判断が大審院の判例に違反すると主張する。しかし当裁判所の判例(昭和二三年(れ)六七五号同年一〇月二三日第二小法廷判決、昭和二三年(れ)一一三二号同年一二月二七日第一小法廷判決等)はいずれも、不法領得の意思をもつて事実上他人の支配内にある物件を自己の支配内に移したときは茲に窃盗罪は…