東京補給本廠構内の倉庫からアメリカ軍用羊毛シヤツ五梱包四〇〇枚を取り出し、これをその場に停めていたトラツク自動車の上の廃品の山をかきわけ積み込み、その上方より廃品を被せて隠匿し、共犯者の一人はその間運転台にあつた以上、構外まで物件を搬出しなかつた場合においても、窃盗の既遂と解すべきである。
窃盗が既遂に達したと解される一事例
刑法235条
判旨
窃盗罪における占有の移転(実行の着手・既遂)は、必ずしも物件を構外に搬出することを要せず、他人の意思に反して自己の支配内に移したと認められる時点で既遂に達する。
問題の所在(論点)
工場や倉庫等の施設内において、財物を車両に積み込み隠匿したものの、未だ施設外へ搬出していない段階で、窃盗罪の既遂が認められるか。換言すれば、占有の移転があったといえるか。
規範
窃盗罪(刑法235条)における「窃取」とは、占有者の意思に反して財物を自己又は第三者の占有に移転させることをいう。占有の移転時期、すなわち既遂時期については、財物の形状、大きさ、搬出の困難性等の諸条件を総合し、財物が他人の支配を離れて行為者の事実上の支配下に入ったか否かによって判断すべきである。
重要事実
被告人らは、米軍用羊毛シャツ400枚(5梱包)をトラックに積み込み、その上に廃品を被せて隠匿した。共同被告人の一人はその間トラックの運転台にいた。しかし、当該トラックはまだ構外へは搬出されていなかった。
あてはめ
本件では、400枚ものシャツをトラック上の廃品の山をかきわけて積み込み、さらにその上から廃品を被せて隠匿するという作為が行われている。このような隠匿行為に加え、共犯者が運転台に位置していつでも発進可能な状態にあったことからすれば、たとえ構外に搬出する前であっても、当該財物はもはや元の占有者の支配を離れ、被告人らの事実上の支配内に移ったものと認められる。
結論
被告人らの行為は、他人の占有するものを他人の意思に反して自己の支配内に移したものと認めるのが相当であるから、窃盗の既遂罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、占有移転の判断において「施設外への搬出」が必須ではないことを示した。司法試験では、万引きや倉庫内での窃盗における既遂時期の論述で活用できる。特に、隠匿行為の態様や財物の支配可能性(運転席への着座等)を具体的事実として拾い、支配の移転を認定する際の有力な根拠となる。
事件番号: 昭和31(あ)3129 / 裁判年月日: 昭和32年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】窃盗罪における既遂時期は、目的物を自己の実力的支配下に移した時点(取得)であり、共犯者が重量のあるケーブル線を持ち上げて運搬を開始し、一定の距離を移動させた場合には既遂が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者A・Bと共謀し、炭鉱内に置かれていた鎧装ケーブル線約16メートルを窃取しようとした…