判旨
控訴審において、第一審の弁論終結前に取調を請求し得なかった証拠等として義務的に取り調べるべき証拠(刑訴法393条1項但書)に該当しない場合、証拠調べを行うか否かは裁判所の裁量に属する。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法393条1項但書に基づき、控訴審において裁判所が義務的に証拠調べを行わなければならない範囲、およびそれ以外の証拠の採否に関する裁判所の裁量の有無が問題となる。
規範
控訴審において、刑事訴訟法382条の2第1項所定の事実(第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかったこと等)を疎明する資料が、同要件を十分に疎明していない場合、または事後的な情状にすぎず第一審の事実誤認・量刑不当を証明するために欠くことができないと認められない場合には、同法393条1項但書による証拠調べの義務は生じず、その採否は裁判所の合理的な裁量に委ねられる。
重要事実
被告人は、第一審判決後に作成された被害者の上申書(謝罪や慰謝料受領の事実)および警察署長の証明書(飲食店の廃業届出の事実)を提出し、これらは第一審の量刑不当等を証明するために不可欠な証拠であるとして控訴審での取調を求めた。しかし、上申書の内容は第一審判決後の出来事を示唆するものであり、かつ第一審で尋問済みの事項も含まれていた。また廃業届も第一審判決後の提出であった。原審がこれらを取り調べずに控訴を棄却したため、被告人が証拠調義務違反(刑訴法393条1項但書違反)を理由に上告した。
あてはめ
提出された上申書や証明書は、その内容から第一審の弁論終結後の事実に関するものであることが明白であり、刑訴法382条の2第1項所定の「やむを得ない事由により取調を請求できなかった証拠」等の疎明資料としては不十分である。また、既に第一審で尋問済みの事項や判決後の情状に関する事実にすぎず、これらは第一審の事実誤認や量刑不当を証明するために不可欠なものとも認められない。したがって、本件各書面は同法393条1項但書の義務的取調対象には当たらず、これを取り調べなかった原審の判断に裁量の逸脱はない。
結論
控訴審が本件各書面を取り調べなかったことは刑訴法393条1項但書に違反せず、原判決は正当である。
実務上の射程
控訴審における証拠調べの原則(裁量)と例外(義務)の境界を画する。特に、一審判決後の事実(事後情状)に関する証拠は、特段の事情がない限り393条1項但書の義務的取調対象にはならず、裁量棄却が可能であることを示す際に用いる。
事件番号: 昭和28(あ)4985 / 裁判年月日: 昭和30年2月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の任意性に関する事実の取調の要否は控訴審の裁量に属し、刑事訴訟法393条1項但書に該当しない限り、取調を行わないことは違法ではない。 第1 事案の概要:被告人が、第一審での自白が強制による供述であり、憲法38条および刑訴法319条1項に違反すると主張した事案。控訴審は自白の任意性について事実の…
事件番号: 昭和27(あ)4396 / 裁判年月日: 昭和29年1月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審における事実の取調べは、第一審判決の当否を判断するために必要な範囲に限られ、その要否は裁判所の裁量に委ねられる。第一審で請求可能であった証拠につき、控訴審で新たに証拠調べを求める場合には、その事由を疏明する必要がある。 第1 事案の概要:被告人Bの弁護人は、第一審では被告人の精神状態に関する…
事件番号: 昭和57(あ)1144 / 裁判年月日: 昭和58年12月19日 / 結論: 棄却
電報電話局長に対し逆探知資料の送付嘱託を行うことの当否等を判断するため、右資料の存否という訴訟法的事実を認定するには、いわゆる自由な証明で足りる。