判旨
権利行使の手段として行われる暴行・脅迫が恐喝罪を構成するか否かは、その手段が社会通念上一般に忍容すべき限度を超えているかによって判断される。正当な権利の行使であっても、社会通念上の許容範囲を逸脱する態様で行われた場合には恐喝罪が成立する。
問題の所在(論点)
正当な権利(債権)を有する者が、その債権回収のために暴行・脅迫を用いた場合、いかなる範囲で恐喝罪の違法性が阻却されるか、あるいは罪を構成するか。
規範
権利行使の手段として暴行又は脅迫を用い、他人に財物を交付させた場合、その手段が「社会通念上、一般に忍容すべきものと認められる程度」を逸脱しているときは、恐喝罪(刑法249条)が成立する。
重要事実
被告人らは、被害者が麻薬を偽物とすり替えたことで生じたとされる8万円の債務(借用書が存在)の支払を求めた。しかし、被害者がこれを拒んだため、数回にわたり顔面や頸部を拳で殴打し、さらに「要求に応じなければいかなる危害を加えるかも知れない」という態度を示して脅迫した。その結果、畏怖した被害者から現金合計8万円を交付させた。
あてはめ
被告人らの行為は、借用書の存在を根拠とした権利行使の側面がある。しかし、その態様は、複数回にわたる身体的暴行(殴打)を加え、さらなる危害を予感させる強い脅迫を伴うものであった。このような強圧的な手段は、たとえ正当な債権の取り立てという目的があったとしても、社会通念上許容される権利行使の範囲を明らかに逸脱していると評価される。
結論
被告人らの行為は恐喝罪を構成する。権利行使の手段として社会通念上一般に忍容すべき程度を逸脱したものであるため、第一審および原審の有罪判決は正当である。
実務上の射程
事件番号: 昭和27(あ)5991 / 裁判年月日: 昭和29年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利行使の目的で恐喝手段を用いた場合でも、それが正当な権利行使の範囲を逸脱し、権利行使に仮託して財物を請求したと認められるときは、恐喝罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、貨物自動車の引渡を請求するにあたり、恐喝的な手段を用いた。被告人らは正当な権利行使であることを主張したが、原審はこれが…
自切行為(自力救済)の禁止の原則に基づき、権利の存在が犯罪成立を直ちに否定するものではないことを示す重要判例。答案上は、不法領得の意思(特に『権利者としての権利行使』の限界)や、手段の相当性による違法性阻却の判断枠組みとして活用する。恐喝罪だけでなく、強盗罪や権利行使に伴う暴行・脅迫事案全般に応用可能。
事件番号: 昭和31(あ)2806 / 裁判年月日: 昭和34年10月8日 / 結論: 棄却
一 本件権利行使の方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を逸脱していると認むべきこと原判示のとおりである。 二 (原審の認定事実の要旨)被告人AはBに約二万円余を横領されその被害金の弁償を受けるまで同人所有家屋内の戸、障子等を担保にとつたところ、事情を知らない同人の妻Cが担保品を売却したことから躍起となつ…
事件番号: 昭和31(あ)1649 / 裁判年月日: 昭和34年4月28日 / 結論: 棄却
スト支援者が会社の構内において争議中の労組員ら六、七〇名と共謀し、たまたま五・三〇記念大会視察中の巡査部長を取り囲み、多衆の威力を背景にして身体または自由に対し危害を加えかねまじき気勢を示して脅迫を続け、取り上げた警察手帳を読み上げたりした上強要して詫状を書かせ、これを参集者に向つて読み上げさせた後、強いてデモ隊の中央…