スト支援者が会社の構内において争議中の労組員ら六、七〇名と共謀し、たまたま五・三〇記念大会視察中の巡査部長を取り囲み、多衆の威力を背景にして身体または自由に対し危害を加えかねまじき気勢を示して脅迫を続け、取り上げた警察手帳を読み上げたりした上強要して詫状を書かせ、これを参集者に向つて読み上げさせた後、強いてデモ隊の中央附近に引き入れてスクラムを組み、その脱出を不可能にして同所より警察署前まで連行し、三時間余り同巡査部長を不法に監禁した所為は、労働組合法第一条第一項の目的達成のためにした正当行為というこはできない。
労働組合法第一条第一項の目的達成のための正当行為と認められない事例。
労働組合法1条,刑法223条1項,刑法220条1項,憲法28条
判旨
労働組合法1条2項の刑法35条による免責は、同条1項の目的達成のためにした正当な行為にのみ認められる。団体交渉等の際であっても、暴行・脅迫等の違法な行為は正当行為とは認められず、刑法上の責任を免れない。
問題の所在(論点)
労働組合等の団体行動の際に行われた暴行・脅迫・監禁等の行為が、労働組合法1条2項および刑法35条の「正当行為」として違法性が阻却されるか。
規範
憲法28条が保障する団結権・団体行動権は無制限ではなく、国民の平等権・自由権・財産権等の基本的人権に優位するものではない。労働組合法1条2項による刑法35条の適用は、同条1項の目的達成のためにした「正当行為」に限られ、刑法上の暴行罪・脅迫罪に当たるような行為にまで免責が及ぶものではない。
重要事実
被告人は、ストライキ支援のために来集した数十名と共謀し、視察中の巡査部長を包囲して脱出困難にし、悪口雑言を浴びせた。さらに、同人に対し「打殺してしまう」等と怒号して脅迫し、詫状の作成を強要した。その後、約200名の示威隊の中央に同人の両腕を扼して引き入れ、スクラムを組んで警察署まで連行し、約3時間20分にわたり監禁した。
あてはめ
被告人らの行為は、警察官を多数で包囲・脅迫して義務のない詫状を書かせ、腕を掴んで強制的に連行するという、身体の自由を著しく拘束する監禁行為を伴うものである。このような暴力的・脅迫的な手段を用いた行為は、たとえ労働争議に関連してなされたとしても、労組法1条1項の目的達成のための正当な手段の範囲を逸脱しているといえる。
結論
被告人の所為は正当行為には当たらず、監禁罪等の成立を認めた原判決に憲法違反や法令の誤りはない。
実務上の射程
労働組合による争議行為や団体行動の限界(正当性の範囲)を画する重要判例である。答案上は、憲法28条の保障の趣旨から説き起こし、労組法1条2項の正当性の要件(主体・目的・手段・手続)のうち、特に「手段の相当性」が暴行・脅迫等の実力行使によって否定される文脈で使用する。
事件番号: 昭和31(あ)685 / 裁判年月日: 昭和33年7月11日 / 結論: 棄却
鉱山会社の人員整理に伴う企業整備反対闘争を有利に展開するため、同会社の労働組合員である被告人らが、執務中の同会社文珠坑坑長および同坑労務係長をその各自室から約七百米または約百米離れた角力場まで連行し、爾後約三時間の長きにわたり、組合員数百名と円陣を作つて取り囲み、その脱出を不能ならしめた上マイクをつき付けて執拗に人員解…
事件番号: 昭和26(れ)1209 / 裁判年月日: 昭和27年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】争議行為に伴う暴行・脅迫や不法監禁等の行為は、正当な争議行為の範域を逸脱するものであり、刑法35条及び旧労働組合法1条2項(現1条2項)による正当行為として免責されない。 第1 事案の概要:労働組合関係者らによる争議行為に際し、他者に対して暴行・脅迫(判示第一)及び不法監禁(判示第二)が行われた。…
事件番号: 昭和26(あ)1165 / 裁判年月日: 昭和28年2月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合法1条2項による刑事免責の範囲は、同条1項の目的達成のためにされた正当な行為に限定され、暴行や脅迫、監禁等の刑罰法規に触れる行為には及ばない。 第1 事案の概要:被告人等は、労働争議の過程において、使用者側に対し逮捕、監禁、公務執行妨害等の行為に及んだ。被告人側は、これらの行為が憲法28条…