判旨
供述の中に互いに食い違う部分が含まれている場合であっても、裁判所がその中から事実認定に合致する供述部分を選択して採用することは、証拠の取捨選択に関する裁判所の合理的な裁量の範囲内である。
問題の所在(論点)
一人の証人の供述内に不一致や矛盾がある場合に、その一部のみを抽出して犯罪事実の認定に供することが、採証法則(自由心証主義の限界)に反するか。また、そのような認定が最高裁判例に違反し上告理由となるか。
規範
証拠の取捨選択および証拠の証明力の判断は、事実認定を担う裁判所の専権に属する。一人の供述の中に矛盾する内容が含まれる場合であっても、裁判所がその一部を信用し、他を排斥して事実を認定することは直ちに採証法則違反となるものではなく、その選択に合理性が認められる限り適法である。
重要事実
被告人は、第一審公判における証人Aの証言等を根拠に事実を認定した原判決に対し、上告を申し立てた。被告人側の主張によれば、当該証人Aの供述内容には互いに食い違う部分が含まれており、そのような不一致のある供述を証拠として採用し事実を認定したことは、過去の最高裁判例に違反し、採証法則に反する重大な事実誤認があるとした。
あてはめ
本件において、証人Aの供述に矛盾や食い違いがあることは認められる。しかし、第一審および控訴審の判決文を検討すると、裁判所はAの供述全体を漫然と採用したのではなく、判決で認定した事実に合致する特定の供述部分のみを、その信用性を認めて採用していることが明らかである。これは証拠の取捨選択の範囲内であり、単なる意見陳述を証拠とした例や、明らかに信用できない供述を漫然と採用して正義に反する結果を招いた先行判例の事案とは状況を異にする。したがって、本件の証拠評価に違法は認められない。
結論
証人の供述に一部不一致があっても、裁判所が合理的な判断に基づき、その一部を信じて事実認定の基礎とすることは許容される。本件の認定は採証法則に反せず、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟における自由心証主義(刑訴法318条)の限界に関する判断を示す。答案上は、供述の一部に虚偽や変遷があるからといって直ちに供述全体の信用性が否定されるわけではないことの根拠として利用できる。特に「供述の分割信用の可否」が問題となる事案において、裁判所の合理的な裁量を肯定する判例として位置付けられる。
事件番号: 昭和25(あ)2201 / 裁判年月日: 昭和26年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実認定における証拠の取捨選択は事実審の裁量権に属する事項であり、それが条理や実験法則に反しない限り、上告理由となる憲法違反等の違法には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が、第一審判決の認定した事実について、証拠の総合的な評価に誤りがあり条理及び実験法則に違背するものであると主張し、事実認定を…