記録によれば、被告人は昭和三〇年三月七日逮捕され、同月一〇日勾留状の執行を受け、同月一四日、一五日及び二二日の三回に検察官に対して自白したものであるが、関係者数名あり金銭授受の趣旨が問題であることその他本件事案の模様に照らし、逮捕後八日ないし一六日になされた右各自白は、当裁判所大法廷屡次の判例(昭和二三年(れ)四三五号同年一〇月六日宣告、昭和二六年(れ)一六八八号同三〇年六月二二日宣告)の趣旨に徴し不当に長く拘禁された後の自白であるということはできない。
憲法第三八条第二項にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」にあたらない一事例
憲法38条2項,刑訴法319条1項
判旨
逮捕から8日ないし16日経過後になされた検察官に対する自白は、事案の性質や関係者の状況に照らし、憲法38条2項にいう「不当に長く拘禁された後の自白」には当たらない。
問題の所在(論点)
憲法38条2項および刑事訴訟法319条1項の「不当に長く拘禁された後の自白」に該当し、証拠能力が否定されるか。特に、逮捕後8日から16日経過後の自白がこれに当たるかが問題となる。
規範
自白の証拠能力が否定される「不当に長い拘禁」に該当するか否かは、単なる拘禁期間の長短のみならず、事案の性質(関係者の人数や立証の難易)、捜査の必要性、拘禁の経緯等を総合的に考慮して判断される。
重要事実
被告人は昭和30年3月7日に逮捕され、同月10日に勾留状の執行を受けた。その後、同月14日、15日、22日の3回にわたり、検察官に対して自白を行った。本件は関係者が数名存在し、金銭授受の趣旨が争点となるなど、事案の解明に相応の捜査を要する状況にあった。弁護人は、これら逮捕後8日から16日経過した後の自白は不当に長い拘禁後の自白であり違憲であると主張した。
あてはめ
本件における自白は逮捕後8日から16日の間になされたものである。拘禁期間として極端に長期とはいえず、また本件事案が数名の関係者を伴い、金銭授受の主観的趣旨が問題となるなど複雑な側面を有していたことに照らせば、捜査に要した期間は合理的範囲内といえる。したがって、当該拘禁は「不当に長い」ものとは評価できない。
結論
本件各供述調書は不当に長い拘禁後の自白とはいえず、証拠として採用した第一審の判断に憲法違反はない。
実務上の射程
自白の任意性・証拠能力を争う際、憲法38条2項の「不当な拘禁」を主張するための期間的目安として機能する。もっとも、本判決は事案の複雑性を考慮しており、単純な期間比較ではなく、捜査上の必要性との相関で判断すべきという実務上の枠組みを示している。
事件番号: 昭和41(あ)279 / 裁判年月日: 昭和41年5月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長い抑留・拘禁後の自白(憲法38条2項、刑訴法319条1項)の該当性は、事案の性質や具体的状況に照らして判断されるべきであり、12日から32日経過後の自白であっても、直ちに証拠能力が否定されるわけではない。 第1 事案の概要:被告人が抑留または拘禁されてから12日から32日が経過した後に自白…