判旨
憲法25条は、国が国民に対し健康的で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障する義務を負うことを示すものであり、個々の具体的犯罪に対する量刑判断において直ちに直接的な救済を基礎付けるものではない。
問題の所在(論点)
生活苦等の悲惨な境遇下で行われた犯行に対する量刑が不当であるとの主張を、憲法25条違反として刑訴法405条の上告理由とすることができるか。
規範
憲法25条の法意は、国が公衆衛生の向上及び増進等に努めるべき義務を負うことを宣示するものであり、特定の被告人に対する具体的な量刑判断の妥当性を憲法違反として争うための直接の根拠にはなり得ない。
重要事実
被告人が刑事事件において犯行に及んだが、その背景には「悲惨な境遇」があった。弁護人は、このような過酷な生活環境下での犯行に対して一定の刑を科すことは、生存権を保障した憲法25条に違反するものであり、量刑が不当であると主張して上告した。
あてはめ
上告趣意は憲法25条違反を主張するが、その実質は「悲惨な境遇」を理由とする量刑不当の主張にすぎない。最高裁の判例(昭和23年大法廷判決)に照らせば、憲法25条は具体的犯罪の処罰を免れさせたり、量刑の適否を直接的に拘束したりする性質のものではない。したがって、本件のような事実誤認や量刑不当の主張は、刑訴法405条所定の上告理由には該当しないと解される。
結論
本件上告は刑訴法405条の上告理由にあたらないため、棄却されるべきである。
実務上の射程
刑事弁護において、被告人の貧困や境遇を有利な情状として主張する場合、それはあくまで量刑不当の問題(刑訴法381条)であり、原則として憲法25条違反という憲法問題には昇華されないことを示している。答案上は、社会権的側面が刑事責任を免除する根拠にはならないことを確認する際に参照し得る。
事件番号: 昭和29(あ)590 / 裁判年月日: 昭和29年5月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法25条1項の生存権規定を根拠として、生活困窮を理由に犯罪行為が正当化されたり、実刑を免れたりすることはない。 第1 事案の概要:上告人は、最低限度の生活すら営み得ない困窮状態において犯罪を犯した。弁護人は、このような状況下での犯行について実刑を科すことは憲法25条1項に違反し、量刑が不当である…