所論は、本件につき適用された刑法九五条一項は憲法一四条に違反し無効であると主張する。しかし刑法九五条は、刑法第五章の公務の執行を妨害する罪として公務員によつて執行される公務を保護する趣旨の規定であつて、公務員を特別に保護する趣旨を含むものではない。従つてもつぱら個人を保護するために定められたことの明らかな所論の刑法二二二条とは全くその法益を異にする。それゆえ刑法九五条をもつて公務員を保護する規定であると解し、その前提の下に右規定の違憲を論ずる主張は採用のかぎりでない。
公務執行妨害罪の保護法益
刑法95条,憲法14条
判旨
刑法95条1項の公務執行妨害罪は、公務員によって執行される公務そのものを保護する趣旨の規定であり、公務員個人を特別に保護するものではないため、憲法14条に違反しない。
問題の所在(論点)
刑法95条1項(公務執行妨害罪)の規定は、公務員という特定の身分を有する者を特別に保護する趣旨を含み、憲法14条の「法の下の平等」に違反し無効となるか。
規範
刑法95条1項は、公務員によって執行される公務を保護することを目的とする規定であり、特定の身分を持つ個人(公務員)を特別に保護する趣旨を含むものではない。したがって、同条は憲法14条が規定する法の下の平等に反するものではない。
重要事実
被告人が公務執行妨害罪(刑法95条1項)等に問われた事案において、弁護側は、同条が公務員という特定の身分を不当に優遇し、一般人に対する脅迫罪(刑法222条)等と比較して不平等な差別を設けるものであるとして、憲法14条違反を主張し上告した。
事件番号: 昭和38(あ)1203 / 裁判年月日: 昭和39年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法95条の公務執行妨害罪は、公務員個人を特別に保護するものではなく、公務員によって執行される公務そのものを保護法益とするものである。 第1 事案の概要:被告人らは、公務員の職務執行に際して暴行または脅迫を加えたとして、公務執行妨害罪等の刑責を問われた。これに対し弁護側は、同罪が公務員を不当に優遇…
あてはめ
刑法95条1項は「公務の執行を妨害する罪」として、国家または公共団体の活動である公務の円滑な遂行を保護法益とする。これに対し、刑法222条(脅迫罪)は専ら個人の自由や安全を保護するものである。このように、公務執行妨害罪は公務員個人ではなく「公務そのもの」を保護の対象としており、その性質上、個人保護を目的とする規定とは法益が全く異なる。したがって、公務員を不当に特別扱いしているという前提は失当である。
結論
刑法95条1項は憲法14条に違反せず、合憲である。本件上告は棄却される。
実務上の射程
公務執行妨害罪の保護法益が「公務の適法な執行」にあり、公務員個人の身体・自由ではないことを確認する際の根拠となる。違憲審査の文脈だけでなく、職務の適法性が同罪の成立要件(構成要素)となる理由を法益論から説明する際にも有用である。
事件番号: 昭和27(あ)2966 / 裁判年月日: 昭和28年10月2日 / 結論: 棄却
刑法第九五条は公務員を特別に保護する規定ではなく、公務員によつて執行される公務を保護するものである。
事件番号: 昭和30(あ)3951 / 裁判年月日: 昭和31年7月5日 / 結論: 棄却
刑法九五条は公務員を特別に保護する規定ではなく、公務員によつて執行される公務を保護するものであるから、論旨は同条の保護法益に関する誤つた見解に立つものであつて、違憲の主張はその前提を欠くものである。(最高裁判所判例集七巻一〇号一八八三頁参照)