判旨
刑事訴訟法210条の緊急逮捕規定は、身体の自由を保障する憲法33条に違反せず合憲である。また、捜索・逮捕に直接従事する者だけでなく、現場で協力・排除にあたる警察職員への暴行も公務執行妨害罪の対象となる。
問題の所在(論点)
1. 刑事訴訟法210条(緊急逮捕)は、令状によらない逮捕を禁止する憲法33条に違反しないか。 2. 捜索・逮捕の現場において、直接の担当者ではないが協力・補助にあたる警察職員に対する暴行は、公務執行妨害罪を構成するか。
規範
刑事訴訟法210条の緊急逮捕は、一定の重大な罪を犯したと疑うに足りる充分な理由があり、かつ急速を要し裁判官の逮捕状を求めることができない場合に、その理由を告げて執行されるものであって、憲法33条の令状主義の例外として合憲である(最大判昭30・12・14引用)。また、特定の公務執行の現場において、直接の担当者だけでなく、その執行に協力して妨害者を排除し、または現行犯逮捕を補助する警察官の行為も、保護すべき職務執行の一部を構成する。
重要事実
被告人らは、警察職員による捜索および逮捕の執行現場において、当該職務に直接従事していた警察職員のみならず、現場で公務の執行に協力し、妨害者を排除したり現行犯人を逮捕したりしていた警察職員らに対しても暴行・傷害を加えた。弁護側は、緊急逮捕規定の違憲性や、協力的な警察職員への暴行が公務執行妨害罪にあたらないこと、さらに自白の任意性欠如等を主張して上告した。
あてはめ
1. 緊急逮捕の合憲性について、最高裁は大法廷判例を引用し、一定の厳格な要件(重大犯罪の嫌疑、緊急性)の下で認められる本制度は憲法33条に違反しないと判示した。 2. 公務の内容について、起訴状記載の訴因には捜索・逮捕に直接従事する者だけでなく、現場で協力・妨害排除にあたる警察職員への暴行も含まれると解するのが相当である。現場での秩序維持や補助行為は一連の職務執行と不可分であり、これらに対する暴行も公務執行妨害および傷害の罪を構成する。自白の任意性については、拷問等の事実は認められないとした原審の判断を正当として維持した。
結論
刑事訴訟法210条は合憲であり、本件緊急逮捕の手続も適法である。また、現場で協力する警察職員への暴行も公務執行妨害罪等に該当し、原判決に憲法違反や法令違反はないとして上告を棄却した。
実務上の射程
緊急逮捕の合憲性を確認する際の基本判例として活用する。また、公務執行妨害罪における「職務の執行」の範囲について、直接の担当者のみならず、補助的・協力的な公務員への暴行も含む広範な保護範囲を認める際の論拠となる。
事件番号: 昭和30(あ)465 / 裁判年月日: 昭和32年10月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法210条の緊急逮捕の規定は、憲法33条に違反せず合憲である。裁判官の令状をあらかじめ要しない場合であっても、厳格な要件下で事後に令状を求める手続は、憲法の趣旨に反するものではない。 第1 事案の概要:本件において被告人側は、緊急逮捕を認めた刑事訴訟法210条は令状主義を定める憲法33条に…
事件番号: 昭和30(あ)441 / 裁判年月日: 昭和31年2月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法210条の緊急逮捕制度は憲法33条に違反せず、その要件を満たして行われた緊急逮捕は適法な公務の執行であって、これに対する抵抗は公務執行妨害罪を構成する。 第1 事案の概要:被告人らは、警察官が刑事訴訟法210条に基づき実施しようとした緊急逮捕の措置に対し抵抗し、公務執行妨害罪等に問われた…
事件番号: 昭和30(あ)463 / 裁判年月日: 昭和32年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】緊急逮捕(刑訴法210条)は、一定の重罪について「充分な理由」と「急速を要し、逮捕状を求めることができない」という厳格な制約の下で事後の審査を条件とするものであり、憲法33条に違反しない。また、氏名等が不明でも、捜査官が容貌等により本人を直ちに犯人と識別・特定し得る場合には、同条の要件を満たす。 …