判旨
刑事訴訟法210条の緊急逮捕制度は憲法33条に違反せず、その要件を満たして行われた緊急逮捕は適法な公務の執行であって、これに対する抵抗は公務執行妨害罪を構成する。
問題の所在(論点)
緊急逮捕制度の合憲性、および緊急逮捕の着手(結果的に未遂となった場合を含む)が公務執行妨害罪(刑法95条1項)における「職務を執行するに当たり」の適法性要件を満たすか。
規範
1. 刑事訴訟法210条に基づく緊急逮捕制度は、憲法33条が定める令状主義の例外として合憲である(最大判昭30.12.14参照)。 2. 同条所定の要件(死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したと疑うに足りる充分な理由、及び急を要し裁判官の逮捕状を求めることができないこと)を充足して行われる緊急逮捕は、適法な公務の執行にあたる。
重要事実
被告人らは、警察官が刑事訴訟法210条に基づき実施しようとした緊急逮捕の措置に対し抵抗し、公務執行妨害罪等に問われた。弁護側は、(1)緊急逮捕制度自体が憲法33条に違反すること、(2)本件では同条所定の要件を満たしておらず違法な権力行使であること、(3)実際には逮捕に至らなかったため事後の逮捕状請求手続がなされていないこと等を理由に、公務執行妨害罪は成立しないと主張した。
あてはめ
1. 制度の合憲性について、既に確立された大法廷判決の趣旨に照らし、緊急逮捕は憲法33条に違反しない。 2. 本件における警察官の措置は、原判決が詳細に認定した具体的な事情及び経緯に照らせば、刑事訴訟法210条所定の要件を充足しており、適法な職務執行と認められる。 3. 緊急逮捕を試みたものの結果として被疑者を逮捕するに至らなかった場合、事後に裁判官から逮捕状を求める手続がなされないのは当然であり、この点をもって手続が違法となるものではない。
結論
緊急逮捕制度は合憲であり、本件逮捕措置は刑事訴訟法210条の要件を満たす適法な公務の執行である。したがって、これに抵抗した被告人らには公務執行妨害罪が成立する。
実務上の射程
緊急逮捕の適法性判断においては、逮捕に至らなかった未遂の段階であっても、着手時において210条の要件(重大罪種・充分な疑い・緊急性)を備えていれば、その後の暴行・脅迫に対して公務執行妨害罪が成立することを確認する際に有用である。
事件番号: 昭和30(あ)442 / 裁判年月日: 昭和32年10月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法210条の緊急逮捕規定は、身体の自由を保障する憲法33条に違反せず合憲である。また、捜索・逮捕に直接従事する者だけでなく、現場で協力・排除にあたる警察職員への暴行も公務執行妨害罪の対象となる。 第1 事案の概要:被告人らは、警察職員による捜索および逮捕の執行現場において、当該職務に直接従…
事件番号: 昭和30(あ)463 / 裁判年月日: 昭和32年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】緊急逮捕(刑訴法210条)は、一定の重罪について「充分な理由」と「急速を要し、逮捕状を求めることができない」という厳格な制約の下で事後の審査を条件とするものであり、憲法33条に違反しない。また、氏名等が不明でも、捜査官が容貌等により本人を直ちに犯人と識別・特定し得る場合には、同条の要件を満たす。 …