検察官の上訴を認める制度または検察官による量刑不当を理由とする上訴は、憲法第三七条第一項第一三条に違反しない。
検察官の上訴と憲法第三七条第一項第一三条
憲法37条1項,憲法13条,刑訴法351条
判旨
検察官による量刑不当を理由とする上訴を認める刑事訴訟法の規定は、憲法81条の最高裁判所の性格に関する規定を除き、審級制度の設計を立法府の裁量に委ねている憲法の趣旨に反せず、二重の危険の禁止(憲法39条)にも違反しない。
問題の所在(論点)
検察官が量刑不当を理由に上訴し、被告人にとってより重い刑を求めることを可能とする刑事訴訟法の制度は、憲法の定める審級制度や二重の危険の禁止(憲法39条)に違反するか。
規範
憲法は、81条において最高裁判所の性格を定めているほかは、審級制度の具体的設計について何ら規定を置いていない。したがって、どのような審級制度を設けるかは、立法府が法律をもって適宜に定めることができる。また、下級審の判決に対し、検察官が有罪またはより重い刑を求めて上訴することは、憲法39条(二重の危険)に違反しない。
重要事実
被告人が刑事事件で起訴され、第一審判決を受けたところ、検察官が量刑不当を理由として控訴を申し立てた。原審(控訴審)は事実の取調べを行い、記録および証拠に基づき情状を検討した結果、第一審の刑が軽きに失すると判断し、第一審判決を破棄してより重い刑を言い渡した。これに対し、被告人側は、検察官の上訴を認める制度および量刑不当を理由とする検察官の上訴は憲法に違反するとして上告した。
あてはめ
まず、審級制度については、憲法は最高裁判所の終審裁判所としての性格を定めているのみであり、検察官の上訴権を含めた審級の構成は立法政策の問題である。次に、検察官の上訴により被告人がより重い刑を科される可能性が生じる点についても、先行する大法廷判例の趣旨に照らせば、憲法39条の二重の危険の禁止には抵触しないと解される。本件原審においても、単に前科があることのみをもって判断したのではなく、独自の事実取調べの結果を踏まえて諸般の事情を参酌しており、適法な手続に基づいている。
結論
検察官に量刑不当を理由とする上訴権を認める現行法の規定は、憲法に違反しない。したがって、原判決は維持されるべきであり、本件上告は棄却される。
実務上の射程
刑事手続における検察官上訴の合憲性を基礎づける最重要判例の一つである。答案上は、二重の危険の終局時期(審級の継続性)や、立法府の広範な刑事手続形成権を論じる際の根拠として引用される。被告人の不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)は被告人のみが上訴した場合の規定であり、検察官が上訴している場合には適用されないことの憲法的正当性を裏付ける。
事件番号: 昭和59(あ)1600 / 裁判年月日: 昭和60年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官による量刑不当を理由とした控訴申立てに基づき、控訴審が第一審判決を破棄して被告人に不利益な刑を言い渡すことは、憲法39条(二重処罰の禁止)および憲法37条1項(公平な裁判所の裁判を受ける権利)に違反しない。 第1 事案の概要:被告人に対し第一審判決が言い渡されたが、検察官がその量刑が軽すぎる…
事件番号: 昭和28(あ)4867 / 裁判年月日: 昭和29年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法39条(二重処罰の禁止等)および憲法37条1項(公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利)の違反を主張して量刑不当を争う上告は、原審で主張・判断を経ていない事項であり、かつ実質的に量刑を非難するものに過ぎない場合は適法な上告理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人は刑を言い渡されたが、量刑…
事件番号: 昭和50(あ)1860 / 裁判年月日: 昭和51年1月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事裁判における分割裁判(分離公判等)の実施は、受訴裁判所の合理的な裁量の範囲内に属し、その裁量を逸脱しない限り、憲法31条や37条に違反するものではない。 第1 事案の概要:被告人側が、第一審において行われたいわゆる分割裁判の実施について、憲法37条(公平な裁判所の迅速な裁判)、31条(適正手続…
事件番号: 昭和44(あ)2262 / 裁判年月日: 昭和47年4月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官による上告理由のうち、憲法28条違反の主張は実質的な事実誤認または単なる法令違反にすぎず、判例違反の主張も事案を異にするため、刑訴法405条の上告理由に該当しない。 第1 事案の概要:検察官が、被告人らによる行為の正当性に関する判断に憲法28条(労働基本権)違反および判例違反があるとして上告…