一 刑訴第五二条は公判期日における訴訟手続に関する或る記載を訴訟記録等の資料によつて明白な誤記と認めることを許さない趣旨ではない。 二 公判調書の記載の正確性に関する異議申立の有無にかかわらず公判調書の記載を誤記と認めることは許される。 三 公判調書に「証人の証言の証明力を争うため刑訴第三二一条の証拠として」とある記載を、単に「刑訴第三二一条の証拠として」の誤記であると認めることは許される。 四 第一審の公判期日に或る供述調書を「刑訴第三二八条の証拠として」取調べたとの公判調書の記載を、控訴審裁判所が自ら取調べた証人の供述によつて、右は「刑訴第三二一条の証拠として」取調べたとの誤記であると認めることは許されない。
一 公判調書の証明力と明白な誤記 二 記載の正確性に関する異議と誤記 三 誤記と認めることが許される事例 四 誤記と認めることが許されない事例
刑訴法52条
判旨
公判調書に記載された訴訟手続の正確性は、刑訴法52条により原則として公判調書のみで証明されるが、記録上明白な誤記の修正は許される。しかし、証拠請求の趣旨という実質的内容について、公判調書の記載と異なる認定を他の証拠に基づき行うことは同条に反し許されない。
問題の所在(論点)
公判調書に記載された証拠請求の趣旨(根拠条項等)について、刑事訴訟法52条の制限を超えて、他の証拠(人証等)に基づき「誤記」として読み替えることが許されるか。
規範
公判期日における訴訟手続の証明は、公判調書のみによってこれを行う(刑事訴訟法52条)。この趣旨は、公判調書の絶対的証明力を認めることで訴訟手続の明確性と法的安定性を図る点にある。もっとも、訴訟記録等の資料により「明白な誤記」と認められる場合には、異議申立ての有無にかかわらず修正が許される。しかし、証拠請求の具体的根拠条項(例:328条か322条か)のような、請求の趣旨そのものに関する記載については、原則として公判調書の記載のみによって証明されるべきであり、反証は許されない。
重要事実
第一審において、検察官は被告人の供述調書等を「刑訴法328条の証拠として」取調べ請求し、裁判所もその旨を公判調書に記載した上で証拠調べを実施した。第一審判決は、これらの調書を実質証拠(罪となるべき事実の認定の証拠)として採用した。控訴審において、弁護人が「328条の証拠(弾劾証拠)を実質証拠としたのは違法である」と主張したのに対し、控訴審裁判所は証人(副検事等)の尋問を行い、公判調書の記載は「刑訴法322条の誤記」であると認定して弁護人の主張を退けた。
あてはめ
本件において、第三者の供述調書に関する「証人の証明力を争うため」との付記を削り321条の書面と認めることは、書面の形式内容から明白な誤記として許容される。しかし、被告人の供述調書について、公判調書に「328条の証拠として」と明記されているものを、記録上明確な根拠がないにもかかわらず、証人尋問の結果に基づき「322条の証拠」と読み替えることは、刑訴法52条の絶対的証明力に反する。証拠請求の趣旨は訴訟手続の根幹に関わる事項であり、調書外の証拠による反証を許すと同条の趣旨を没却することになる。したがって、原審がこれを誤記と認めた点は違法であるといえる。
結論
公判調書の記載を他の証拠により「誤記」として覆すことは原則として許されず、原審の判断は刑訴法52条に違反する(ただし、他の証拠で事実認定が維持できるため、結論として破棄は免れた)。
実務上の射程
刑事訴訟法52条の「絶対的証明力」の限界を画した判例である。答案上は、公判調書の記載と客観的事実が食い違う場面で、それが「明白な誤記」の範囲内か、それとも「反証」にあたるかの区別で用いる。証拠請求の趣旨や証拠決定の内容といった核心的部分については、52条により公判調書が絶対的に優先されると論述すべきである。
事件番号: 昭和29(あ)2540 / 裁判年月日: 昭和30年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官面前調書の証拠能力に関し、伝聞例外の要件たる『特信情況』の存否は事実審裁判所の裁量に属する。また、公判において被告人に反対尋問の機会が十分に与えられていた場合には、当該調書の証拠採用は憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは公職選挙法違反等に問われた事案において、検察官作成のAら計6…