一 刑訴第三二一条第一項第二号の検察官の面前における供述を録取した書面について証拠調を請求するには、その原本を提出することを要し、その謄本を原本に代えて提出することは原則として許されないと解すべきである。 二 検察官が右書面の謄本により証拠調を請求したのに対し、弁護人が謄本そのものにより証拠調を請求することには異議があると述べたが、謄本につきその原本の存在並びにその成立を認めながら原本自体を法廷に顕出しなければ証拠調の目的を達し難い理由等についてなんら陳述するところがない場合には、謄本自体に原本に準ずる証拠能力を認めて、これについて証拠調の請求並びに証拠調をすることも法の許容するところと解するを相当とする。
一 検察官の面前における供述を録取した書面について証拠調を請求するには、その原本に代えて謄本を提出することが許されるか 二 右書面の謄本自体に原本に準ずる証拠能力を認めた一事例
刑訴法321条1項2号,刑訴法317条
判旨
検察官面前調書の謄本は、原則として刑事訴訟法321条1項2号の書面として証拠能力を欠くが、相手方が原本の存在および成立を認める場合には、原本に準ずる証拠能力が認められる。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法321条1項2号に規定される「検察官の面前における供述を録取した書面」の原本に代えて、その謄本を証拠とすることができるか。特に、相手方が原本の存在・成立を認めている場合の謄本の証拠能力が問題となる。
規範
刑事訴訟法321条1項2号の書面として証拠調を請求するには、供述者の署名・押印という要件を満たす原本を提出するのが原則であり、謄本を原本に代えて提出することは原則として許されない。しかし、相手方が謄本について原本の存在およびその成立を認め、かつ、原本自体を法廷に顕出しなければ証拠調の目的を達し難いといった特段の事情がない場合には、謄本自体に原本に準ずる証拠能力を認めて証拠調をすることができる。
重要事実
検察官は、公判において、Aの検察官面前供述調書の謄本を刑訴法321条1項2号の書面として証拠調請求した。これに対し、弁護人は「謄本そのものによる請求には異議がある」と述べつつも、当該謄本について原本の存在およびその成立(真正に作成されたこと)については認める旨を陳述した。また、原本自体を法廷に現出しなければ証拠調の目的を達し難い理由等については何ら主張がなかった。第一審および控訴審は、この謄本により被告人の自白を補強して有罪としたため、弁護人が証拠能力の欠如を理由に上告した。
あてはめ
本件では、被告人側(弁護人)が、証拠請求された調書謄本に対応する原本の存在とその成立の真正を明示的に認めている。また、原本の不提示によって証拠調べの目的が達せられないような具体的な支障も示されていない。このような状況下では、謄本は実質的に原本と同等の証拠価値を有すると評価できるため、原本に準ずる証拠能力を肯定するのが相当である。したがって、原本未提出を理由に証拠能力を否定する必要はない。
結論
相手方が原本の存在および成立を認める場合には、検察官面前調書の謄本に基づき証拠調べをすることが許される。本件謄本を補強証拠として有罪とした判断に違法はない。
実務上の射程
最良証拠の原則の例外を認めた判例である。実務上、原本の提出が困難な場合や、相手方が争わない場合に謄本での証拠調べを正当化する根拠として用いることができる。ただし、相手方が謄本の正確性や原本の成立を争う場合には、本判決の射程外となり、原則通り原本の提出が必要となる点に注意を要する。
事件番号: 昭和30(あ)2427 / 裁判年月日: 昭和31年6月28日 / 結論: 棄却
一 第一審においては、弁護人は所論供述調書の内容が信用できないことを理由として、証拠とすることに異議を申立てたのであり、右異議は、原本の存在を争つたり、謄本なるが故に証拠能力がないと主張したものでないことが認められる。従つて、被告人が本件につき控訴審において申立てた控訴趣意第一点において「而も右は謄本であつて、弁護人に…