一 第一審においては、弁護人は所論供述調書の内容が信用できないことを理由として、証拠とすることに異議を申立てたのであり、右異議は、原本の存在を争つたり、謄本なるが故に証拠能力がないと主張したものでないことが認められる。従つて、被告人が本件につき控訴審において申立てた控訴趣意第一点において「而も右は謄本であつて、弁護人において謄本を証拠とすることに対し異議を述べており原本の顕出もなされていないものであるから証拠となし得ないものである」というのは、第一審において主張のなかつた事項を恰も主張したもののごとくいうのであり、第一審判決の攻撃としては前提を欠くものである。 二 第一審が本件供述調書の謄本の内容を措信するに足るものとしてこれを証拠に採用したことには違法は認められない。
一 適法な控訴理由として前提を欠く一事例 二 供述調書謄本の証拠能力
刑訴法379条,刑訴法322条,刑訴法323条
判旨
第一審で供述調書の内容の信用性を争って異議を述べた場合、原本の不存在や謄本であることを理由とする証拠能力の制限を主張したものとはいえず、謄本を証拠採用したことに違法はない。
問題の所在(論点)
第一審において証拠の「内容」を争う異議が申し立てられた場合に、その異議の対象に「謄本であること(原本の不存在)」による証拠能力の制限が含まれるか。また、そのような異議のみがなされた状況で謄本を証拠採用することの適法性が問題となる。
規範
証拠調における異議の申立ては、その対象となる事項を特定して行わなければならない。第一審において供述調書の「内容の信用性」を理由に異議が述べられたにとどまる場合、それは「原本の存在」や「謄本であることによる証拠能力の欠如」を争う趣旨を含まない。したがって、適法な証拠調べ手続を経て、裁判所が当該謄本の内容を信頼に足りると判断したときは、これを証拠に採用することができる。
重要事実
被告人の公判において、検察官から供述調書の謄本が証拠提出された。これに対し、第一審の弁護人は、当該調書の内容が信用できないことを理由として証拠とすることに異議を申し立てた。しかし、第一審において原本の存在を争ったり、謄本であることを理由に証拠能力を否定する主張は行わなかった。第一審判決後、被告人側は控訴審において「第一審で謄本の証拠採用に対し異議を述べており、原本の顕出もないため証拠とできない」旨を主張して上告した。
あてはめ
第一審の記録によれば、弁護人は「内容が信用できない」とのみ主張しており、異議の対象は証明力の評価に関するものであったといえる。これは「謄本ゆえに証拠能力がない」という形式的な証拠法則上の主張とは異なる。裁判所が当該謄本の内容を措信するに足りると判断した以上、第一審が証拠として採用したことに手続上の違法は認められない。控訴審における「第一審で謄本であることに異議を述べた」との主張は事実に反し、前提を欠くものである。
結論
第一審で内容の信用性のみを争い、謄本であること自体を争わなかった場合に、当該謄本を証拠に採用した判断に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
証拠調への異議申立て(刑訴法309条1項)において、具体的理由として何が示されたかが重要となる。最良証拠の法則に関連し、謄本の証拠能力を争うのであれば、単に内容の信用性を争うだけでなく、原本の提出がない点や謄本である点について明示的に異議を述べる必要があることを示唆している。
事件番号: 昭和28(あ)2533 / 裁判年月日: 昭和28年11月17日 / 結論: 棄却
公判調書に証拠書類が取り調べられた旨の記載があり、検察官がその謄本を提出するについて被告人側より異議を申し立てた形跡もなく、且つ同謄本が記鉄に編綴されている以上、右謄本の提出につき裁判所の許可があつた旨が公判調書に記載されていないからといつて、右許可がなかつたものとすることはできない。