麻薬取締法違反の物件が、同法所定の麻薬の成分を含有することにつき訴訟当事者間に争がなく、他に信用性を有する証拠によつて該事実が認められる以上、専門家の鑑定に依拠しないいで右の事実を認定しても、不当であるとはいえない
麻薬の成分を含有することの認定資料
刑訴法317条,麻薬取締法2条1号,麻薬取締法別表23号,麻薬を指定する政令(昭和29年政令22号)
判旨
麻薬の成分含有の有無は専門家の鑑定によるべきであるが、当事者間に争いがなく、他の高度の信用性ある証拠によって認定可能で反対証拠もない場合には、鑑定なしに認定しても不当ではない。
問題の所在(論点)
刑事裁判において、麻薬成分の含有という科学的知見を要する事実を、専門家の鑑定を経ずに、関係者の供述等の他の証拠のみで認定することが許されるか。
規範
麻薬成分の含有の有無は、科学的問題として原則として専門家の鑑定によるべきである。しかし、①当該事実について訴訟当事者間に争いがなく、②鑑定以外の他の高度の信用性を有する証拠によって当該事実が認められ、かつ、③他にこれに反する証拠が存在しない場合には、鑑定を経ずとも他の証拠により当該事実を認定することが許容される。
重要事実
被告人は、商品名「スートン」と称する注射薬約5,000本を譲り渡すなどして麻薬取締法違反で起訴された。検挙当時、現物は既に存在せず鑑定が不可能であった。第一審において、検察官・被告人・弁護人は、本件物件が麻薬に該当することについて争わなかった。証拠として、薬品商店員である被告人の自白調書のほか、製造者である製薬業者A、及び薬剤師免許を有する譲受人Bの供述調書が存在していた。
あてはめ
まず、被告人及び弁護人が第一審において麻薬該当性を争っていないことから、要件①を充たす。次に、物件が現存せず鑑定不能という状況下、薬品の専門知識を有する被告人自身に加え、製造者Aや薬剤師Bといった専門的知識を有する者の具体的供述が存在しており、これらは「高度の信用性を有する証拠」といえるため、要件②を充たす。さらに、本件物件が麻薬ではないことを示す証拠は全く発見されないため、要件③も充たす。したがって、本件では鑑定なしに麻薬該当性を認めた原判決の判断は正当である。
結論
鑑定が不可能な場合であっても、当事者に争いがなく、関係者の専門的な供述等により高度の蓋然性が認められるならば、鑑定を経ない事実認定も適法である。
実務上の射程
科学的証明が要求される事案において、物件の滅失等により鑑定が不可能な場合の救済法理として機能する。もっとも、被告人が否認に転じた場合や、供述者の専門性が低い場合には、本法理の適用は慎重に検討すべきであり、実務上は「鑑定に代わる高度の信用性」の有無が主戦場となる。
事件番号: 昭和26(あ)3791 / 裁判年月日: 昭和28年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が公判で証拠物と品物に相違ない旨を供述し、かつ弁護人が鑑定の必要がない旨を明示している場合には、裁判所が鑑定を行わなかったとしても審理不尽の違法はない。 第1 事案の概要:被告人は第一審公判において、警察の鑑識課による成分検査の結果に相違がなく、対象の薬(ホスピタン)も被害者方のものであるか…
事件番号: 昭和28(あ)675 / 裁判年月日: 昭和29年12月24日 / 結論: 棄却
被告人が「塩酸ヘロイン」を譲り受けた事実を認定判示して旧麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号、ただし昭和二七年法律第一五二号による改正前のもの)第四条第三号、第五七条を適用するにあたり、「塩酸ヘロイン」が同法第四条第三号にいう「ヂアセチルモルヒネの塩類」であることにつき、証拠を挙示する必要はない。