被告人が「塩酸ヘロイン」を譲り受けた事実を認定判示して旧麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号、ただし昭和二七年法律第一五二号による改正前のもの)第四条第三号、第五七条を適用するにあたり、「塩酸ヘロイン」が同法第四条第三号にいう「ヂアセチルモルヒネの塩類」であることにつき、証拠を挙示する必要はない。
「塩酸ヘロイン」が「ヂアセチルモルヒネの塩類」であることと証拠挙示の要否
旧麻薬取締法(昭和23年法律123号、ただし昭和27年法律152号による改正前のもの)4条3号,旧麻薬取締法(昭和23年法律123号、ただし昭和27年法律152号による改正前のもの)57条,刑訴法317条,刑訴法335条1項
判旨
ある化学物質が法令上の規制対象(麻薬等)に該当するか否かは法令解釈の問題であり、事実認定の問題ではない。したがって、裁判所が当該該当性を判断するにあたって、証拠を挙示して事実を認定する手続を要しない。
問題の所在(論点)
特定の化学物質(塩酸ヘロイン)が法令上の規制対象物質(麻薬)に該当するか否かの判断は、証拠による証明を要する「事実認定」の問題か、あるいは裁判所が専権で行う「法令解釈」の問題か。
規範
特定の物質が法令(麻薬取締法等)に規定される禁止薬物に該当するか否かは、事実認定の問題ではなく「法令解釈」の問題である。したがって、当該判断にあたって証拠による証明を要せず、裁判所が法解釈として直接判断することができる。
重要事実
被告人が塩酸ヘロイン等を譲り受けたとして、麻薬取締法違反で起訴された事案である。原審は、塩酸ヘロインが同法に規定されるヂアセチルモルヒネの塩類に該当することを「公知の事実」として説明した。これに対し弁護人は、当該事由は証拠によって認定されるべき事実であり、証拠に基づかずになされた認定は訴訟法違反であると主張して上告した。
あてはめ
塩酸ヘロインが麻薬取締法4条3号に該当するかという点は、法の適用範囲を確定する作業であり、本質的に法令解釈の領域に属する。法令解釈は裁判官の職責であり、証拠によって証明されるべき事実(要証事実)ではない。原審が「公知の事実」と説明した点は必ずしも妥当ではないが、証拠を挙げずに法令上の該当性を肯定したという結論において、訴訟法上の違法は認められない。
結論
塩酸ヘロインが麻薬に該当するかは法令解釈の問題であるから、証拠を挙示する必要はなく、原判決の結論は正当である。上告棄却。
実務上の射程
実務上、薬物の成分自体(白い粉末の内容物等)については鑑定書等の証拠による証明を要するが、判明した成分が法律上の定義に含まれるかという点(あてはめ)については、裁判所の独白の判断事項であることを示している。司法試験においては、法規の解釈・適用と事実認定の区別を論じる際の基礎となる。
事件番号: 昭和31(あ)3643 / 裁判年月日: 昭和32年3月28日 / 結論: 棄却
塩酸ジアセチルモルヒネは麻薬取締法一二条中の「その塩類」に当るこというまでもない。