職工主任として勤務中の紋工所において主人の不在中、他人から縮緬二〇反を代金九万円で買入れの依頼を受け、品物は一両日後に他より入手して手渡すことおよび品物と引替えに残金を委託者から受取る旨を約し、代金の内払として額面四五、〇〇〇円の小切手を預り保管中、直ちに現金化してこれを期日の到来していた自己および他の職人の当月分の給料に充て、縮緬の買受先へ商談に赴く際も右小切手や現金を持参せず、紋工所が得意先から受取るべき仕事の掛金を集金してこれに当てようと意図していたような場合は、右給料への充当は、単に一時使用の目的で委託物を流用したにとどまるものとはいえない。
一時使用の目的で委託物を流用したとは認められない事例
刑法252条,刑訴法411条3号
判旨
金銭の買入れを委託されて預かった小切手を、委託の趣旨に反して直ちに現金化し、自己の給料や生活費に費消した場合には、横領罪の不法領得の意思が認められる。
問題の所在(論点)
金銭の買入れを委託されて交付を受けた小切手を、目的外の使途に費消した場合に、横領罪における不法領得の意思(犯意)及び違法性が認められるか。
規範
横領罪(刑法252条1項)における「横領」とは、不法領得の意思、すなわち、他人の物を占有する者が、委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思を確定的に外部に発現させる行為をいう。
重要事実
被告人は、被害者Aから縮緬20反の買入れの依頼を受け、その代金の内払として額面4万5000円の小切手を預かった。被告人は、品物を一、二日後に入手して手渡す際に残金を受け取る約定であった。しかし、被告人は右小切手を直ちに現金化し、当時勤務していた工房での自己及び他の職人の給料や、自身の生活費として費消した。被告人は買受先への商談に赴いた際も、預かった小切手や現金を持参しておらず、別途回収予定の掛金を代金に充当しようと意図していた。
あてはめ
被告人は、縮緬の買入れ代金の内払として小切手の寄託を受けており、その占有は委託関係に基づくものである。しかし、被告人は本来の目的である買入れの支払いに充てることなく、受領後速やかに現金化し、自己の給料や生活費という全く別個の使途に費消している。商談の際にも当該小切手等を持参せず、将来の不確実な集金分を代金に充てようとしていた事実に照らせば、委託の任務に背き、所有者でなければできない処分をなす意思(不法領得の意思)が確定的に外部に発現しているといえる。
結論
被告人に横領罪の犯意及び違法性が認められ、横領罪が成立する。
実務上の射程
使途を定めて寄託された金銭(または小切手)を、受託者が自己の利益のために費消した場合の典型的な横領罪の成立パターンを示すものである。「事後的に補填する意図」があったとしても、委託の趣旨に反して現在の占有物を処分した時点で不法領得の意思が肯定される点において実務上重要である。
事件番号: 昭和23(れ)1412 / 裁判年月日: 昭和24年3月8日 / 結論: 棄却
一 横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき權限がないのに所有者でなければできないような處分をする意思をいうのであつて必ずしも占有者が自己の利益取得を意圖することを必要とするものではなく、又占有者において不法に處分したものを後日に補顛する意思が行爲當時にあつたからとて横…