判旨
第三者の所有物を没収する場合に、当該第三者に告知、弁解、防御の機会を与えることなく没収の言渡しをすることは、憲法31条、29条に違反する。また、没収の対象が犯人の所有に属するか否かの判断にあたり、対抗要件(民法178条等)の具備は不要である。
問題の所在(論点)
1. 第三者の所有物を没収する際、当該第三者に告知、弁解、防御の機会を与えない手続は適憲か。 2. 刑事没収において、所有権の帰属を判断する際に対抗要件(民法178条等)の具備が必要か。
規範
1. 憲法31条及び29条に基づき、被告人以外の第三者が所有する物件を没収するには、当該所有者に対し、没収の手続において告知、弁解、防御の機会を与えることが必要不可欠である。 2. 刑事裁判における没収規定の適用上、貨物が犯人の所有に属するか否かは真実の所有権の帰属によって判断すべきであり、民法上の対抗要件(引渡し等)の有無は関係しない。対抗要件は取引の安全のための制度であり、刑事裁判所がその具備を理由に所有権取得を否認することはできない。
重要事実
被告人は洋服生地類を密輸出する目的でA商店から買い受けたが、密輸出が不能となったため売買契約を解除した。当該生地類は依然として被告人が占有し、押収されていたが、所有権は解除によりA商店に復帰していた。第一審判決は、この生地類について第三者であるA商店に告知・弁解等の機会を与えることなく、被告人に対する判決で没収を言い渡した。また、密輸出の手数料として交付された現金(3万円)を「犯行に供した物件」として没収し、さらに判示事実と一致しない人絹布についても没収した。
あてはめ
1. 本件洋服生地類は、売買契約の解除によって所有権がA商店に復帰しており、真実の所有者は第三者である。それにもかかわらず、A商店に防御の機会を与えずに没収を言い渡したことは、適正手続を欠き、憲法31条、29条に違反する。 2. 山田裁判官の少数意見のように対抗要件の欠如を理由に被告人所有とみなすことは、刑事裁判における実質的な所有権判断の観点から許されない。真実の所有者が第三者である以上、第三者没収の手続を履践すべきである。 3. 現金については密輸出の手数料として交付されたものであり、刑法19条1項2号の「犯行に供した物件」という解釈には誤りがあるか、事実誤認が存在する。
結論
第三者に告知・弁解の機会を与えずに没収した原判決及び第一審判決は違憲であり、破棄を免れない。また、没収物件の特定違いや法解釈の誤りも認められるため、本件を差し戻す。
実務上の射程
刑事手続において第三者所有物を没収する際の適正手続(告知・聴聞)の必要性を確立した重要判例である。答案上では、没収・追徴の可否が問われる際、特に対抗要件が未具備の段階での所有権帰属や、第三者没収における手続的適正の論拠として引用する。また、現金が「供した物」に当たるかの判断(19条1項2号)の検討材料にもなる。
事件番号: 昭和30(あ)995 / 裁判年月日: 昭和37年11月28日 / 結論: 破棄自判
一 旧関税法(昭和二九年法律第六一号による改正前の関税法をいう。)第八三条第一項の規定により第三者の所有物を没収することは、憲法第三一条、第二九条に違反する。 二 前項の場合、没収に言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であつても、これを違憲であるとして上告をすることができる。