公職選挙法違反事件において、審判の対象として認定されていない金員を被告人から没収した判決は、刑訴第四一一条第一号により破棄を免れない。
刑訴第四一一条第一号にあたる一事例 ――審判の対象として認定されていない金員を没収した判決の違法――
刑訴法 第四一一号一条 公職選挙法 第二二四号
判旨
公職選挙法224条に基づく没収は「収受し又は交付を受けた利益」を対象とするため、他者を饗応した供与者側に対して、当該饗応に係る金員を同条により没収することはできない。
問題の所在(論点)
公職選挙法221条1項1号の買収罪(供与・饗応)が成立する場合において、供与者側から、その供与に供した利益を同法224条に基づき没収することができるか。
規範
公職選挙法224条は「収受し又は交付を受けた利益は、没収する」と規定している。したがって、没収の対象となるのは、収受等の行為によって犯人の手元に存在するに至った利益に限られる。自ら進んで他者を饗応(供与)したに過ぎない事実については、同条を適用して金員を没収することはできない。
重要事実
被告人Aは、衆議院議員総選挙の候補者Mを当選させる目的で、選挙人ら8名に対し1人前107円相当の酒肴を饗応した。第一審において、Aが選挙運動の報酬として500円を受領した事実は無罪とされ、確定した。しかし、控訴審判決は、Aが選挙人らを饗応した事実のみを有罪としたにもかかわらず、公職選挙法224条を適用してAから現金100円を没収したため、Aが上告した。
あてはめ
被告人Aが有罪とされたのは、選挙人らに対して酒肴を饗応したという供与側の事実のみである。公職選挙法224条が没収の対象とするのは「収受し又は交付を受けた利益」である。Aは饗応を受けた者ではなく、自ら饗応を行った者(供与者)であるから、Aの手元にある金員は同条にいう「収受した利益」等には該当しない。したがって、Aから金100円を没収した原判決の判断は、同条の解釈を誤った違法なものである。
結論
被告人が他人を饗応した事実のみで有罪とされる場合、公職選挙法224条を適用して被告人から金員を没収することはできない。原判決の没収部分を破棄し、自判により没収を付さずに罰金刑を言い渡す。
実務上の射程
本判決は、公職選挙法における没収・追徴の対象を限定的に解釈するものである。答案上は、没収の要件である「収受・交付」の文言に忠実に、供与者側の手元資金が没収対象とならないことを論証する際に用いる。刑法19条の没収規定(犯行供用物等)との峻別に留意が必要である。
事件番号: 昭和31(あ)941 / 裁判年月日: 昭和31年9月6日 / 結論: 棄却
公職選挙法に違反して甲から乙に交付され次いで丙に供与された現金が、そのまま丙から乙に、乙から甲に返還された場合にはその金員は甲から没収し、没収することができないときは追徴すべきものである。