公職選挙法に違反して甲から乙に交付され次いで丙に供与された現金が、そのまま丙から乙に、乙から甲に返還された場合にはその金員は甲から没収し、没収することができないときは追徴すべきものである。
公職選挙法に違反して交付、供与された現金がそのまま返還された場合と没収、追徴
公職選挙法224条
判旨
選挙運動の報酬として交付された利益が、被供与者から仲介者を経て供与者に返還された場合であっても、供与者から当該利益を没収・追徴することができる。これは、犯罪に関する利益を授受者に保持・回復させないという公職選挙法224条の趣旨に基づくものである。
問題の所在(論点)
公職選挙法上の買収罪等において、供与者が交付した利益が被供与者から返還された場合、供与者から当該利益を没収、またはその価額を追徴することができるか。同法224条の没収・追徴規定の解釈が問題となる。
規範
公職選挙法224条が利益の没収・追徴を規定しているのは、選挙の公正を害する犯罪行為によって授受された利益を常に国庫に帰属させ、授受者がその利益を保持し、または一度手放した利益を回復することを阻止する点にある。したがって、供与した利益が後に返還された場合であっても、当該利益は没収・追徴の対象となる。
重要事実
被告人は、選挙人Bに対し投票の報酬として供与させる目的で、仲介者Aに現金300円を交付した。Aは翌日、この現金をBに手交したが、その翌日にBは現金をそのままAに返還し、Aも即日これを被告人に返還した。被告人は、自己が交付した金銭の返還を受けたに過ぎず、同条にいう「収受し又は交付を受けた利益」に当たらないため、没収・追徴はできないと主張して上告した。
あてはめ
本件の現金300円は、一度はBにおいて「収受した利益」となり、Aにおいては「交付を受けた利益」となっており、いずれも法的に没収・追徴し得る状態にあった。返還によってこの利益が被告人のもとに戻ったとしても、法意に照らせば、一度犯罪に関わり授受された利益が供与者の手元に回復することを許すべきではない。被告人が自己の出した金の返還を受けたという形式にかかわらず、実質的には犯罪に関わる不当な利益の保持にあたるため、被告人から没収・追徴すべきものといえる。
結論
被告人から当該現金を没収(または価額を追徴)することは正当である。
実務上の射程
本判決は、公職選挙法における没収・追徴の強行性を強調するものである。利益が元々の持ち主(供与者)に戻った場合でも、それが「犯罪に関する利益の回復」と評価される限り、没収・追徴の対象外とはならない。刑法一般の没収規定の解釈においても、剥奪の必要性を判断する際の参考となる。
事件番号: 昭和29(あ)1661 / 裁判年月日: 昭和29年8月24日 / 結論: 棄却
選挙運動者が買収のため供与された金員を自ら費消した以上、その利益を享受した選挙運動者から価額を追徴すべく、その後同額の金員が供与者等に返還されたからといつて、返還を受けた者から、これを追徴すべきものではない。