選挙運動者が買収のため供与された金員を自ら費消した以上、その利益を享受した選挙運動者から価額を追徴すべく、その後同額の金員が供与者等に返還されたからといつて、返還を受けた者から、これを追徴すべきものではない。
選挙運動者が買収のため供与された金員を自ら費消した後その同額を返還した場合と価額の被追徴者
公職選挙法224条,公職選挙法221条
判旨
公職選挙法224条に基づく追徴は、利益を享受した者から徴収する趣旨であり、利益を費消した後に同額の金銭を返還しても追徴を免れない。
問題の所在(論点)
公職選挙法上の利益収受において、受領した金員を費消した後に同額の金銭を返還した場合であっても、当該受領者から価額を追徴することが認められるか。没収不能による追徴の対象(「享受した者」の範囲)が問題となる。
規範
公職選挙法224条による価額の追徴は、収受・交付された利益を没収することができなくなった時期において、その利益を所持または享受していた者から追徴するものである。利益そのものが費消され享受し終えた後は、後に同額の金銭を返還したとしても、それは当初の利益そのものの返還ではないため追徴を免れる理由とはならない。
重要事実
被告人両名は、本件供与にかかる金員をそれぞれ受け取ったが、その金員を自己の用途に費消してしまった。その後、被告人らは供与者であるAに対し、費消した金員と同額の金銭を返還した。この場合において、被告人らから当該価額を追徴することができるかが争われた。
あてはめ
被告人らは供与された金員を自己の用途に費消しており、その時点で既に利益をすべて享受し終えたといえる。したがって、この時点で既に利益そのものを没収することができなくなっており、追徴の要件を満たしている。その後に同額の金銭を返還したとしても、それは費消された利益そのものの返還とは評価できず、被告人が既に享受した利益という事実に変わりはない。ゆえに、被告人らから追徴を行うことは正当である。
結論
被告人らから各金員の価額を追徴することは適法であり、上告を棄却する。
実務上の射程
収賄罪等の没収・追徴規定の解釈にも通じる判断である。利益が費消された時点で追徴義務が確定し、その後の事後的な補填(同額返還)によってもその義務は消滅しないという法理を示す。利益そのものを返還した場合と、費消後に代替物を返還した場合を峻別する実務上の指針となる。
事件番号: 昭和31(あ)941 / 裁判年月日: 昭和31年9月6日 / 結論: 棄却
公職選挙法に違反して甲から乙に交付され次いで丙に供与された現金が、そのまま丙から乙に、乙から甲に返還された場合にはその金員は甲から没収し、没収することができないときは追徴すべきものである。