一 公職選挙法二二一条一項五号所定の受交付者が、その交付を受けた趣旨に従つて受交付金員の一部を他に供与したときは、その供与が起訴されていなくても、同法二二四条後段による受交付者からの追徴額の算定にあたり、右供与にかかる金額を控除すべきである。 二 公職選挙法二二一条一項五号所定の受交付者が、受交付金員の一部を後援会等の選挙運動の正当費用に支出したときは、同法二二四条後段による受交付者からの追徴額の算定にあたり、右正当費用にかかる金額を控除すべきである。 三 上告裁判所は、原判決中没収・追徴の部分につき刑訴法四一一条一号、三号に該当する事由があると認めるときは、原判決の右部分のみを破棄し、その余の部分に対する上告を棄却することができる。
一 受交付金員が起訴外の供与に費消された場合と公職選挙法二二四条による追徴 二 受交付金員が選挙運動の正当費用に費消された場合と公職選挙法二二四条による追徴 三 上告審において原判決中没収追徴の部分のみが破棄された事例
公職選挙法221条1項5号,公職選挙法224条,刑訴法357条,刑訴法411条1号,刑訴法411条3号
判旨
公職選挙法221条1項5号の受交付者が、交付を受けた趣旨に従い金員の一部を他へ供与し、または選挙運動の正当費用に支出したときは、これらが起訴されていない場合であっても、同法224条後段による追徴額の算定にあたり当該金額を控除すべきである。
問題の所在(論点)
公職選挙法221条1項5号の受交付罪において、同法224条後段に基づき追徴額を算定する際、受交付者が「交付の趣旨に従って支出した金員(起訴外の供与や正当な選挙費用)」を追徴対象から控除できるか。
規範
公職選挙法224条後段による追徴額の算定において、受交付者が交付の趣旨に従って金員を他へ供与した場合、その供与が起訴の有無にかかわらず、当該金額を追徴額から控除すべきである。また、受交付金員を選挙運動の正当費用に支出した場合も同様に、追徴額の算定にあたって当該支出額を控除すべきものと解するのが相当である。
重要事実
被告人Aは、市長選挙の立候補者Bから選挙運動の報酬資金として2481万3000円の交付を受けた(受交付罪)。Aは、このうち518万7000円を実際に選挙人らに供与した(供与罪、受交付罪に吸収)。さらにAは、捜索以前に、起訴されていない他の選挙人らへの供与や、後援会の正当な活動費用として残りの大半を排他的に排出し終えていた。原審は、起訴された供与額のみを控除して追徴を命じたが、Aは起訴外の供与分等も控除されるべきと主張して上告した。
あてはめ
本件において、AがBから受け取った金員は選挙運動の報酬資金という趣旨で交付されたものである。Aは捜索前に、起訴された供与以外にも、同様の趣旨で起訴外の供与を行い、また後援会の正当費用としても支出している。これらは交付の趣旨に沿った消費であり、Aの手元に利得として残っているとはいえない。したがって、これらの支出額は追徴額の算定において控除されるべきであり、これを考慮せずに全額を追徴の対象とした原判決は、法解釈を誤り事実を誤認したものといえる。
結論
被告人から没収・追徴できるのは、手元に残存していた押収金45万円の没収にとどまり、それを超える部分の追徴を認めた原判決は破棄される。
実務上の射程
追徴の性質が利得の剥奪にあることに鑑み、交付の目的に沿った「費消」が行われた場合には、その実質的な利得が失われているとして追徴額から控除することを認める判断枠組みを示す。公職選挙法固有の規定(224条)に関する判断だが、没収・追徴の一般法理における「利得」の範囲を検討する際の参考となる。
事件番号: 昭和55(あ)632 / 裁判年月日: 昭和58年3月18日 / 結論: その他
選挙運動者が自ら行つた違法な選挙運動に要した費用の支払いに充てるため他から金銭の支弁を受ける行為は、公職選挙法二二一条一項四号(昭和五〇年法律第六三号による改正前のもの)所定の選挙運動をしたことの報酬として金銭の供与を受ける罪にあたる。