選挙運動者が自ら行つた違法な選挙運動に要した費用の支払いに充てるため他から金銭の支弁を受ける行為は、公職選挙法二二一条一項四号(昭和五〇年法律第六三号による改正前のもの)所定の選挙運動をしたことの報酬として金銭の供与を受ける罪にあたる。
違法な選挙運動に要した費用の支払いに充てるため他から金銭の支弁を受ける行為と事後受供与罪
公職選挙法221条1項4号(昭和50年法律第63号による改正前のもの)
判旨
違法な選挙運動に要した費用の支弁を受ける行為は、選挙運動者が本来負担すべき出捐を免れて利得するものであるから、公職選挙法221条1項4号の「報酬」の受領に該当する。
問題の所在(論点)
公職選挙法221条1項4号(旧3号)に規定される「報酬」の意義が問題となる。特に、違法な選挙運動に要した費用の事前支給または事後弁償として金銭を受領する行為が、同条項の「報酬として金銭の供与を受ける罪」に該当するか。
規範
公職選挙法221条1項各号にいう「報酬」とは、選挙運動の対価としての利益を指す。適法な実費弁償はこれに含まれないが、違法な選挙運動に要した費用の支払いとして金銭の供与を受ける行為は、当該運動者が本来負担すべき出捐を免れるという実質的な利得が生じるため、同条項にいう「報酬」にあたる。また、当該供与が他の趣旨の金銭と不可分になされた場合は、受領した金銭全体について同罪が成立する。
重要事実
被告人は、選挙運動に関連してAから現金35万円の供与を受けた。この金員は、被告人が自ら行った違法な選挙運動(他人の饗応や戸別訪問等)に要した費用の支払いに充てるためのものであった。原審は、選挙運動に要した費用の支弁は単なる出費の補填であり実質的利益を与えないとして、公選法221条1項3号(現4号)の報酬受領罪の成立を否定し、無罪を言い渡したため、検察官が上告した。
あてはめ
本件において被告人が受領した35万円は、被告人自らが行った違法な選挙運動の費用に充てられるものであった。違法な選挙運動は法により禁止されている以上、その費用は他者に弁償を求めることができない性質のものであり、これを他者から受け取ることは、本来運動者自身が負担すべき経済的支出を免れることを意味する。したがって、これは単なる実費の補填にとどまらず、選挙運動の対価としての実質的な利得といえるため、選挙の公正を確保しようとする同法の趣旨に照らし「報酬」に該当すると評価される。
結論
違法な選挙運動費用の支弁を受ける行為は公選法221条1項4号の罪を構成する。したがって、原判決の無罪部分は破棄され、差し戻されるべきである。
実務上の射程
選挙犯罪における買収罪の成否を検討する際、金員の交付が「実費弁償」名目であっても、その対象となる活動が「違法な選挙運動」であれば、直ちに買収罪(報酬供与・受領)の成立を肯定する論拠として機能する。
事件番号: 昭和28(あ)4722 / 裁判年月日: 昭和29年3月31日 / 結論: 棄却
原判決は、本件金員が専ら所論の如き選挙運動の実費または労務者に対する正当な報酬として授受されたものとは認定していないのであつて、それ以外の選挙運動に対する報酬などとして不可分的に授受されたものと認定しているのであるから、被告人において、仮に該金員を悉く実費等に充当したと仮定しても、公職選挙法二二一条一項四号の受供与罪の…