判旨
法律の改正があった場合、施行前の行為に対しては旧法を適用すべきであり、新法を適用することは違法であるが、判決に影響を及ぼさない限度では原判決を破棄しなくても著しく正義に反するとは認められない。また、自白の補強証拠は、自白と相まって犯罪事実を認定し得るものであれば足り、鑑定書等の証拠能力に疑義があっても他の証拠で事実認定が可能であれば違法とはならない。
問題の所在(論点)
1. 改正法施行前の行為に対し、経過規定に反して新法を適用した判断の適否、およびそれが上告理由(刑訴法411条)となるか。 2. 補強証拠による事実認定の妥当性。
規範
1. 法律の改正に伴う経過措置がある場合、施行前の行為には旧法を、施行後の行為には新法を適用すべきである。ただし、上告審において原判決を破棄するか否かは、当該違法が判決に影響を及ぼし、破棄しなければ著しく正義に反すると認められるかによって判断する(刑訴法411条参照)。 2. 憲法38条3項の補強証拠は、自白の真実性を担保し、自白と相まって犯罪事実の認定を可能にするものであれば足り、直接的に事実を立証するものである必要はない。
重要事実
被告人は、覚せい剤の譲渡、譲受、および使用の罪に問われた。一部の行為(第5、第6の事実)は覚せい剤取締法の改正施行前に行われたものであったが、第一審判決は、施行後の行為(第1ないし第4の事実)と同様に、すべて重い刑を定めた新法を適用して処断した。また、被告人は事実を自白していたが、弁護人は補強証拠の証拠能力や証明力を争い、事実誤認を主張して上告した。
あてはめ
1. 改正法附則2項は施行前の行為に旧法の適用を定めているため、第5、第6の所為に新法を適用した第一審判決には法令適用の違法がある。しかし、被告人には新法が適用される他の余罪(第1ないし第4)があり、これらは併合罪の関係にある。第一審は、最も重い新法適用の罪の刑期範囲内で懲役6月を選択しており、旧法適用の誤りがあっても宣告刑の妥当性に影響しないため、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとは認められない。 2. 事実認定については、被告人の自白以外に、譲渡・譲受の事実に係る取引相手の自白調書、自己使用の事実に係る同居人の供述調書、および領置された物証が存在する。これらは自白を補強するに十分であり、仮に弁護人が指摘する鑑定書等に証拠能力の欠陥があったとしても、他の証拠により判示事実を認定できる。
結論
1. 新法適用の誤りは認められるが、刑の量定に影響せず、破棄理由には当たらない。 2. 補強証拠は十分であり、事実認定に不合理はないため、上告を棄却する。
実務上の射程
法令適用の誤り(新旧法の取り違え)があっても、併合罪の関係で法定刑の範囲が変動せず、宣告刑に実質的な影響がない場合には、刑訴法411条の「著しく正義に反する」とは認められないという「判決に影響を及ぼさない違法」の処理事例として活用できる。また、自白の補強証拠の範囲についても、共犯者の供述や周辺事実の供述、物証を総合して判断する実務的枠組みを示している。
事件番号: 昭和31(あ)2627 / 裁判年月日: 昭和34年12月22日 / 結論: 棄却
被告人の原判示覚せい剤譲り受けの行為については、それぞれ行為時法に従つて法律上の処遇を判断すべきものではあるが、かかる解釈に基き擬律をすると、同被告人の右昭和二九年法律第一七七号の施行前の覚せい剤各譲り受けと同法施行後の常習および営利の覚せい剤譲り受けとは併合罪として重い後者の刑に併合加重をしなければならないことになつ…