被告人が前に執行猶予の判決言渡を受けたことがあつても、新たに審判すべき犯行が前の判決により認められた罪の余罪であつて、事実審裁判所がこれを同時に審判すれば一括して執行猶予を言い渡し得たであろう情状があると思料したときは、刑法二五条二項が新設された後においても同条一項によつて刑の執行猶予を言い渡すことができることは、昭和二九年(あ)第二四五九号同三一年五月三〇日言渡大法廷判決の判示するところである。
刑法第二五条第二項の法意
刑法25条,刑法25条ノ2 1項
判旨
執行猶予期間中の者に対し、前の判決言渡より前の犯行(余罪)について審判する場合、刑法25条2項の要件を満たさずとも、同時審判であれば一括して執行猶予を付し得た情状があるときは、同条1項により重ねて執行猶予を言い渡すことができる。
問題の所在(論点)
執行猶予の言渡を受けた者が、その言渡前の犯行(余罪)について判決を受ける際、刑法25条2項(再度の執行猶予)の要件を満たさない場合であっても、同条1項により重ねて執行猶予を言い渡すことができるか。
規範
刑法25条2項が新設された後においても、被告人が前に執行猶予の判決を受けたことがあり、新たに審判すべき犯行が前の判決により認められた罪の余罪であって、事実審裁判所がこれを同時に審判すれば一括して執行猶予を言い渡し得たであろう情状があると思料するときは、同条1項によって刑の執行猶予を言い渡すことができる。
重要事実
被告人は、昭和29年8月4日に食糧管理法違反罪により懲役3月、執行猶予3年の判決を受け、同月19日に確定した。原審は、右判決言渡以前の犯行である同年7月24日の食糧管理法違反(余罪)について、懲役4月及び罰金2万円に処し、刑法25条1項を適用して再び3年間の執行猶予を言い渡した。これに対し検察官は、執行猶予期間中の者に対し更に執行猶予を言い渡すには、必ず25条2項の厳格な要件(罰金刑等)によるべきであり、1項の適用は違法であると主張して上告した。
あてはめ
被告人の本件犯行は、前の執行猶予判決に係る罪の言渡前の余罪である。このような場合、仮に本件犯行と前科に係る罪が同時に審判されていたならば、刑法25条1項により一括して執行猶予の言渡が可能であったといえる。原審が、同時に審判したならば一括して執行猶予を言い渡し得た情状があると判断して同条1項を適用したことは、大法廷判決の趣旨に沿うものであり適法である。25条2項の新設は、このような同時審判の可能性があった余罪について、1項の適用を排除するものではないと解される。
結論
被告人が執行猶予期間中であっても、余罪が前の判決言渡前の犯行であり、同時審判であれば執行猶予が可能であった情状があるときは、刑法25条1項により執行猶予を言い渡せる。
実務上の射程
同時審判の法理に基づく例外的な処理であり、執行猶予期間中の『新たな犯行』については当然に25条2項の厳格な要件が適用される。答案上は、確定判決前の余罪について再度の執行猶予の可否が問われた際、25条1項適用の根拠として活用する。
事件番号: 昭和26(あ)2652 / 裁判年月日: 昭和28年3月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】執行猶予を言い渡すべきか否かの判断において、原判決言渡し後に前科に係る執行猶予期間が満了した事実は、刑法上の判断に何ら影響を及ぼさない。前犯の執行猶予期間中に再犯に及んだ事実がある以上、実刑を維持した原判決に職権破棄事由はない。 第1 事案の概要:被告人は前科につき執行猶予の言渡しを受けていたが、…