農業協同組合参事として組合員に対する金員の貸付けにつき包括的権限を有している者が組合員に対して制度上認められている仮払金名義により金員を貸出す行為が業務上横領の罪を構成するとする理由として、仮払金の制度、定款の規定等を審理することなく、単に「農業協同組合法並びに組合の定款の定めるところに準拠することなく、且つ正規の貸出手続によらないで、その業務上保管に係る組合公金を擅に仮払金名義で支出して……融通したことを認めるに充分であるから……なお組合の公金を不法に領得したものということができる」とするのは、審理不尽、理由不備の違法あることを免れない。
刑訴第四一一条第一号にあたる事例―審理不尽、理由不備の違法
刑法253条,刑訴法411条1号,刑訴法413条本文,農業協同組合法42条
判旨
業務上保管中の金を貸し付ける行為につき業務上横領罪が成立するためには、当該貸付が法令や定款の範囲外であり、かつ被告人の権限外であることを具体的に認定する必要がある。
問題の所在(論点)
組合から全権限を委任されている者が、組合員等に対して仮払金名義で資金を融通した場合、どのような事実を認定すれば業務上横領罪の成立を肯定できるか。
規範
業務上保管中の金員を貸し付ける行為が業務上横領罪(刑法253条)の不法領得の意思の発現といえるためには、当該行為が法令、定款、または内部規則によって認められる範囲を超え、かつ行為者の権限を逸脱して行われたものであることを要する。裁判所は、単に「正規の手続によらない」「擅に(ほしいままに)」といった抽象的な表現で認定するのではなく、当該制度の具体的な内容や、背反した具体的規定を明確に特定しなければならない。
重要事実
農業協同組合の参事である被告人は、会計主任と共謀し、組合の業務上保管中の金を組合員Bおよび非組合員Cに対し、正規の貸出手続を経ず仮払金名義で支出して融通したとして、業務上横領罪で起訴された。第一審および控訴審は、定款等に準拠せず擅に貸し出したことを理由に有罪としたが、当時の組合長は、被告人が組合長を代理する全権限を委任されていた旨を証言していた。
あてはめ
被告人は参事として組合運営の全権限を委任されており、貸付権限自体は有していた。このような広い権限を有する者が、借入資格のある組合員B等に対し、制度上存在する「仮払金名義」で支出した行為について、なお不法領得の意思を認めるためには、仮払金制度の具体的実態や、定款のどの規定にどのように違反したかを精査すべきである。原判決が「正規の手続によらない」等の抽象的判示に留まったことは、構成要件該当性を基礎付ける具体的事実の摘示として不十分であり、審理不尽・理由不備の違法がある。
結論
被告人の行為が権限外の不法な領得にあたるか否かの具体的認定が欠けているため、原判決及び第一審判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
権限を有する者による「越権的貸付」が横領となるか背任にとどまるかの境界に関わる。答案上は、横領罪の不法領得の意思を論じる際、単なる手続違背のみならず、権限の有無や規定の具体的逸脱態様を検討する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)2604 / 裁判年月日: 昭和27年12月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】横領罪における不法領得の意思とは、委託の任務に背いて権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいい、必ずしも自己の利益取得を意図することを要しない。金銭貸付権限を有する者が、その権限外で金員を貸与した場合は、背任罪ではなく業務上横領罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は金銭貸…