判旨
刑法96条の3第2項後段(当時)の競売入札妨害罪における「不正ノ利益」とは、入札の公正を害する目的で授受される利益を指し、必ずしも適正価格(実費に利潤を加算した額)を害する場合に限定されない。
問題の所在(論点)
刑法96条の3第2項(入札談合罪)の「不正ノ利益ヲ得ル目的」に関し、その利益が「公正な価格(実費に利潤を加えた適正額)を害するもの」であることを要するか、あるいは入札の公正を害する目的であれば足りるかが問題となった。
規範
「不正ノ利益」とは、入札の公正を害する不当な目的をもって得られる利益を指す。その利益の授受が、当該入札において「適正な利潤を加算した額(公正な価格)」を害する結果をもたらしたか否かを問わず、入札の公正な実施を妨げる態様での談合に伴う利益であればこれに該当する。
重要事実
公の工事の指名競争入札において、指名入札人の一人であった被告人は、特定の落札希望者から「落札させてほしい」との懇請を受けた。被告人は、これに応じれば謝礼金が供与されることを認識しながら、当該希望者よりも高額で入札することを承諾した。その後、被告人は約束通り高額入札を行い、落札の結果として謝礼金(2万3000円または1万3600円)を受領した。
あてはめ
被告人は、落札希望者の依頼に応じて自己の入札価格を調整し、その対価として金銭を受領している。このような行為は、自由な価格競争を通じた入札の適正な執行を形骸化させるものである。下級審判決が依拠した「公正な価格(適正価格)を害したか否か」という基準は、入札制度の公正維持を目的とする本罪の本質に照らして不要であり、談合の対価として金銭を得る目的があった以上、不正の利益を得る目的が認められる。
結論
被告人の所為は「不正ノ利益ヲ得ル目的」をもって談合したものと認められ、刑法96条の3第2項後段(当時)の罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、談合罪における「不正の利益」を広く解し、経済的な意味での適正価格の侵害を要件としないことを明示した。答案上では、談合に伴う対価(謝礼等)の授受がある場合に、価格の妥当性を論じることなく、入札の公正を害する目的があるとして本罪の成立を肯定する論拠として使用する。
事件番号: 昭和29(あ)484 / 裁判年月日: 昭和32年7月19日 / 結論: 棄却
刑法第九六条ノ三第二項前段にいう「公正ナル価格」とは、当該入札において公正な自由競争によつて形成されたであろう落札価格をいうのであつて、入札なる観念を離れて客観的に測定さるべき公正価格、または「公正な自由競争により最も有利な条件を有する者が実費に適正な利潤を加算した額で落札すべかりし価格」をいうのではない。