第一審裁判官が所論仮処分決定をなした裁判官であるということは、同裁判官を被告人に対する本被告事件審判の職務の執行から除斥するものでないことは、刑訴二〇条各号の規定により明らかであると共に、右の一事を以て同裁判官が不公平な裁判をする虞があつたとも断定することはできない。
除斥の理由が認められない一事例と憲法第三七条第一項
刑訴法20条,憲法37条1項
判旨
裁判官が同一事件の仮処分決定に関与した事実は、刑事訴訟法20条各号の除斥事由に該当せず、直ちに不公平な裁判をするおそれがあるとも断定できない。除斥事由がなく忌避も認められない場合、その裁判官による裁判は憲法37条1項の「公平な裁判所」による裁判に反しない。
問題の所在(論点)
裁判官が過去に同一事件に関連する仮処分決定に関与したことが、刑事訴訟法20条各号の除斥事由に該当するか、あるいは憲法37条1項にいう「公平な裁判所」に反する不公平な裁判をするおそれがあるといえるか。
規範
刑事訴訟法20条各号が規定する除斥事由に該当せず、かつ忌避の理由も認められない場合には、当該裁判官が職務を執行することは憲法37条1項の「公平な裁判所」の要請に反しない。また、特定の裁判に関与したという一事をもって、不公平な裁判をするおそれがあるとは断定できない。
重要事実
第一審を担当した裁判官が、本件被告事件に関連する仮処分決定を以前に行っていた。弁護人は、当該裁判官が過去の仮処分に関与したことを理由に、職務の執行から除斥されるべきであり、また不公平な裁判をするおそれがあるとして、憲法37条1項の「公平な裁判所」による裁判を受ける権利を侵害していると主張した。なお、本件において忌避の申立てがなされた事実は認められなかった。
事件番号: 昭和28(あ)3564 / 裁判年月日: 昭和30年6月14日 / 結論: 棄却
所論判事は、本件犯罪の捜査、第一審、第二審を通じ、ただ第二審第二回公判の判決宣告に関与したのみに過ぎない。従つて、同判事が関与した民事裁判が本件第一審判決における事実認定の証拠に採用されたからといつて、同判事が除斥されるべき職務の執行をしたものということはできない。
あてはめ
刑事訴訟法20条は除斥事由を限定的に列挙しており、仮処分決定への関与は同条各号のいずれにも該当しない。また、過去に仮処分という特定の裁判手続に関与したという事実のみでは、本件の審判において不公平な裁判をする具体的・客観的なおそれがあるとは断定しがたい。本件では適法な忌避申立てもなされていない以上、手続上の公正は担保されていると解される。
結論
本件裁判官は除斥されず、不公平な裁判をするおそれがあるともいえないため、憲法37条1項に違反しない。
実務上の射程
除斥事由の限定性と憲法37条1項の関係を示した。刑事訴訟法20条7号の「前審の裁判」の解釈においても、仮処分等の付随的手続への関与は除斥事由に含まれないとする実務上の根拠となる。弁護人として不公平を主張する場合は、除斥の成否だけでなく忌避の手続を履践すべきであることを示唆している。
事件番号: 昭和27(あ)635 / 裁判年月日: 昭和28年7月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一回公判期日前の勾留に関する処分に関与した裁判官が、後の本案審理・判決に関与することは、刑事訴訟法20条所定の除斥事由に該当せず、憲法37条1項の公平な裁判所による裁判に反しない。 第1 事案の概要:被告人の刑事事件において、第一回公判期日前に行われた勾留に関する処分を担当した裁判官が、その後の…
事件番号: 昭和28(あ)4639 / 裁判年月日: 昭和29年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が定める「公平な裁判所」とは、裁判官が被告人と個人的な利害関係を持つ等の不偏不党性を欠く状態にない組織を指し、当事者が主観的に不公平と感じるか否かによって決まるものではない。 第1 事案の概要:被告人が、原判決の量刑が不当であることを理由として、憲法37条1項の保障する「公平な裁判所…