判旨
裁判所が訴因よりも態様が縮小された事実を認定する場合、被告人の防御権に実質的不利益を及ぼさないため、訴因変更手続を要しない。したがって、傷害罪の訴因に対し、同一性を害しない範囲で暴行罪を認定することは適法である。
問題の所在(論点)
裁判所が傷害罪として起訴された事実に対し、訴因変更手続を経ることなく、それよりも軽い暴行罪の事実を認定することは、訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)を欠く違法なものか。被告人の防御権への影響が問題となる。
規範
裁判所が公訴事実の態様において、訴因たる事実よりも縮小された事実を認定することは、被告人の防御権の行使に実質的な不利益を及ぼすものではないため、訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)を経る必要はない。また、公訴事実の同一性を害しない限り、傷害の事実に対し訴因変更手続なしに暴行の事実を認定することも許容される。
重要事実
被告人は傷害罪(刑法204条)の訴因で起訴され、第一審判決も同罪の成立を認めた。しかし、原審(控訴審)は、日時、場所および被害者を同じくする本件所為について、訴因変更手続を経ることなく第一審判決を破棄し、刑法208条の暴行罪を認定した。これに対し、弁護人が訴因変更手続を経ない事実認定は違法であるとして上告した。
あてはめ
本件において認定された事実は、訴因と日時、場所および被害者を同じくするものであり、公訴事実の同一性の範囲内にある。また、傷害罪から暴行罪への変更は、生理的機能の障害という結果を伴わない点において、訴因たる事実よりも態様が縮小された事実の認定にあたる。このような縮小認定は、被告人の防御にとって不意打ちとなることはなく、実質的な不利益を及ぼすものとはいえない。また、起訴状の罰条の誤りは公訴提起の効力に影響しない(刑訴法256条4項)。
結論
傷害罪の訴因に基づき、訴因変更手続を経ずに暴行罪を認定することは適法である。原判決に訴因変更手続を欠いた違法はない。
実務上の射程
いわゆる「縮小認定」の典型例(傷害から暴行)を示す判例である。構成要件的に重なり合う関係にあり、事実態様が縮小する場合には、防御権への実質的不利益がないものとして、312条1項の例外として訴因変更が不要となる。答案上は、審判対象の画定(識別)と防御権の保障の両面から検討し、本判例を根拠に手続の要否を判断する。
事件番号: 昭和28(あ)5249 / 裁判年月日: 昭和30年11月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】起訴状に記載された事実と裁判所が認定した事実が、その主要な点において異ならず、かつ適用される罰条も同一である場合には、訴因変更の手続を経ることなく当該事実を認定しても適法である。 第1 事案の概要:被告人は、警察官が職務執行法に基づき質問しようとした際、他の2名と共に当該警察官に暴行を加えた。これ…