記録によると、被告人Aに対する起訴状記載の公訴事実には犯行時刻を午後九時頃とあるのを午後一〇時過頃としたほか第一審判決認決事実は公訴事実と全く同一であり、判決で認定した傷害の具体的犯罪構成事実は起訴状記載の傷害の訴因と一致していることが明らかである。すなわち、両者は、ともに、被告人が同年月日、同番地の同じ上で同じ被害者五名の身体を数回ずつ足蹴にする暴行をなし、よつて各被害者にいずれも同一の部位、程度、状態の打撲傷を与え傷害罪を犯したのと事実を記載しているのである。そうして本件において訴因変更手続をとらないで犯罪の時刻だけを右のように公訴事実と異るものとして認定しても、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がないと認められるから違法ではない
訴因変更を要しない一事例。―傷害罪における犯行時刻の差異―
刑訴法312条
判旨
訴因変更手続を経ずに公訴事実と異なる事実を認定しても、それが犯行時刻の軽微な相違に留まり、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないと認められる場合には、違法ではない。
問題の所在(論点)
起訴状記載の公訴事実と認定された事実の間で犯行時刻に相違がある場合、刑事訴訟法312条1項の訴因変更手続を経ることなく判決で認定することが許されるか。特に、防御の不利益の有無が問題となる。
規範
裁判所が訴因変更手続を経ることなく、訴因と異なる事実を認定できるか否かは、認定された事実が訴因と同一性を有するか否か、および、当該認定が被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるか否かによって決する。具体的に、認定された犯罪構成事実が訴因と一致し、かつ、日時等の付随的事実の修正が被告人の防御に実質的な不利益を与えない場合には、訴因変更手続は不要である。
重要事実
被告人Aは、特定の日時・場所において被害者5名を足蹴にし、打撲傷を負わせたとして傷害罪で起訴された。起訴状に記載された犯行時刻は「午後9時頃」であったが、第一審判決では「午後10時過ぎ頃」と認定された。犯行の日付、場所、暴行の態様、被害部位、傷害の程度については、起訴状の記載と判決の認定が全く同一であったが、弁護人は訴因変更手続を経ずに時刻を変更した認定は違法であると主張して上告した。
あてはめ
本件において、認定された傷害の具体的犯罪構成事実は起訴状記載の訴因と一致している。すなわち、年月日、場所、被害者、暴行の態様、傷害の部位・程度・状態はすべて同一であり、唯一の相違点は犯行時刻が「午後9時頃」から「午後10時過ぎ頃」へと修正された点に過ぎない。このような軽微な時間の修正は、本件の全状況に照らせば、被告人にとってアリバイ工作の機会を奪うなどの具体的な防御上の支障をもたらすものではなく、防御に実質的な不利益を生ずるおそれはないと認められる。
結論
犯罪の時刻を公訴事実と異なるものとして認定しても、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないときは、訴因変更手続を経ずになされた認定も違法ではない。
実務上の射程
訴因の基本的同一性の範囲内であり、かつ「防御の不利益」がない場合には訴因変更が不要であることを示した重要判例。答案では、時刻や場所の多少のズレが問題となる場合に、被告人がどのような防御(アリバイ等)を立てていたかを確認した上で、不意打ちにならないことを論証する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和28(あ)5249 / 裁判年月日: 昭和30年11月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】起訴状に記載された事実と裁判所が認定した事実が、その主要な点において異ならず、かつ適用される罰条も同一である場合には、訴因変更の手続を経ることなく当該事実を認定しても適法である。 第1 事案の概要:被告人は、警察官が職務執行法に基づき質問しようとした際、他の2名と共に当該警察官に暴行を加えた。これ…