「被告人両名は共同して被害者某の足を蹴り顔面を殴打して同人に治療一週間を要する左眉毛部裂創並上下眼瞼皮下溢血腫張の傷害を与えた」との公訴事実に対し、訴因変更手続を経ることなく「被告人は被害者某の腰部を下駄ばきの足で蹴上げもつて暴行した」との事実を認定することは違法でない。
訴因変更手続を必要としない一事例
刑訴法312条,刑法204条
判旨
傷害罪の訴因から訴因変更手続を経ることなく暴行罪の事実を認定することは、被告人の防御に実質的な不利益を及ぼさない限り適法である。
問題の所在(論点)
傷害罪の訴因に対し、訴因変更手続(刑事訴訟法312条1項)を経ることなく暴行罪の事実を認定することが許されるか。
規範
訴因変更(刑事訴訟法312条1項)の要否は、審判対象の画定および被告人の防御権保障の観点から判断される。もっとも、縮小事実を認定する場合において、それが当初の訴因に含まれる一事実であって被告人の防御に実質的な不利益を及ぼさないときは、訴因変更手続を経ることなく、訴因と異なる事実を認定することが許容される。
重要事実
被告人が傷害罪の公訴事実をもって起訴された。原審は、第1審判決を破棄して自ら判決を行うに際し、公訴事実のうち傷害の点について訴因変更手続を経ることなく、その一部を構成する暴行の事実を認定した。これに対し、弁護人は訴因変更手続を経ずに異なる事実を認定したことは違法であるとして上告した。
あてはめ
傷害罪は暴行の結果として傷害を生じさせた場合に成立するものであるから、暴行の事実は傷害罪の訴因の中に包含されているといえる。したがって、傷害の証明がなされない場合に、その構成要素である暴行のみを認定することは、被告人にとって当初の訴因の範囲内での縮小認定にすぎない。このような縮小認定は、被告人に予期せぬ不利益を与えるものではなく、防御に実質的な不利益を及ぼさないものと解される。
結論
傷害罪の訴因から訴因変更手続を経ずに暴行罪を認定することは適法であり、原判決に法令違反はない。
実務上の射程
縮小認定の典型例(傷害から暴行、強盗から窃盗等)において、訴因変更手続が不要であるとする判例法理。答案では、認定事実が訴因に含まれるかという「審判対象」の側面と、不意打ちにならないかという「防御権保障」の側面の双方から理由付けを行う際に引用する。
事件番号: 昭和28(あ)2785 / 裁判年月日: 昭和29年12月17日 / 結論: 棄却
強盗致死の訴因に対して傷害致死の事実を認定するについては、訴因罰条の変更手続を経る必要はない。