強盗致死の訴因に対して傷害致死の事実を認定するについては、訴因罰条の変更手続を経る必要はない。
強盗致死の訴因に対し傷害致死の事実を認定する場合と訴因罰条の変更手続の要否
刑訴法312条,刑法240条,刑法205条
判旨
強盗致死罪の訴因から財物奪取の点を除外して傷害致死罪を認定する場合、被告人の防御権行使を実質的に妨げるおそれがない限り、訴因変更手続を経る必要はない。
問題の所在(論点)
強盗致死罪の訴因に対し、訴因変更手続を経ることなく、その一部事実に依拠して傷害致死罪を認定することは、刑事訴訟法312条1項に違反し許されないか。
規範
訴因又は罰条の変更手続が要請される趣旨は、裁判所が訴因等と異なる事実を認定することで、被告人の防御権行使の機会を失わせ、又はこれを徒労に終わらせることを防止する点にある。したがって、認定事実が訴因に包含されており、かつ被告人の防御に実質的な不利益を生じさせるおそれがない場合には、訴因変更手続を経ずに異なる罪名を認定することが許される。
重要事実
被告人は強盗致死罪の訴因で起訴された。第一審裁判所は、訴因のうち財物奪取の点については認められないとしたが、その余の暴行・死亡の事実は認められると判断し、訴因変更手続を経ることなく傷害致死罪を認定した。原審もこれを是認したため、弁護人が訴因変更手続を欠く違法を主張して上告した。
あてはめ
強盗致死罪の訴因には、暴行により人を死亡させたという傷害致死の構成要件的事実が含まれている。本件では、当初の訴因から「財物奪取」の点を除いた残りの事実を認定しており、これは当初の訴因に包含されている事実である。このような認定は、被告人にとって不意打ちとなるものではなく、防御権を不当に制限し、あるいはその行使を徒労に終わらせるおそれはないと解される。
結論
強盗致死罪の訴因から傷害致死罪を認定する場合、被告人の防御権を侵害するおそれがないため、訴因変更手続は不要である。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する「防御権喪失説」のリーディングケースである。答案上は、(1)縮小認定(構成要件的に重い罪から軽い罪への変更)であり、(2)被告人の防御に実質的な不利益を与えないことを論証する際に、本判決の趣旨を引用すべきである。特に強盗致死から傷害致死への変更は典型例として記憶すべきである。
事件番号: 昭和28(あ)1026 / 裁判年月日: 昭和30年10月18日 / 結論: 棄却
「被告人両名は共同して被害者某の足を蹴り顔面を殴打して同人に治療一週間を要する左眉毛部裂創並上下眼瞼皮下溢血腫張の傷害を与えた」との公訴事実に対し、訴因変更手続を経ることなく「被告人は被害者某の腰部を下駄ばきの足で蹴上げもつて暴行した」との事実を認定することは違法でない。