裁判所が殺人未遂の起訴に対して傷害を認定するについては、訴因罰条の変更手続を経る必要はない。(昭和二六年(あ)第七八号同年六月一五日第二小法廷判決参照)
殺人未遂の起訴に対し傷害を認定する場合と訴因罰条の変更手続の要否
刑訴法312条,刑訴規則209条
判旨
殺人未遂の訴因に対し、訴因変更の手続きを経ることなく傷害罪を認定することは適法である。
問題の所在(論点)
殺人未遂罪で起訴されている場合に、訴因変更の手続(刑事訴訟法312条1項)を経ることなく、傷害罪を認定することが許されるか。いわゆる「縮小認定」の可否が問題となる。
規範
訴因の変更を命じ、または許可する義務や権利は、審判対象の画定と被告人の防御権の保障という観点から判断される。しかし、重い罪名で起訴された事実の中に、より軽い罪名に該当する事実が完全に含まれており(包摂関係)、かつ、被告人の防御に実質的な不利益を生じさせない場合には、訴因変更の手続きを経ることなく、縮小された事実に基づき有罪判決を下すことができる。
重要事実
被告人は殺人未遂の罪で起訴された。しかし、審理の結果、殺意の存在は認められなかったものの、他人に傷害を負わせた事実は認められた。原審(一審・控訴審)は、殺人未遂の訴因のまま、刑事訴訟法に基づく訴因変更の手続きを行うことなく、一段階軽い傷害罪の成立を認め、被告人を有罪とした。これに対し、被告人側が訴因変更手続きを欠いているとして上告した。
あてはめ
殺人未遂罪(刑法203条、199条)の構成要件は、殺人の実行に着手し、かつ殺意を有することであるが、これには他人の身体を傷つける(傷害罪、刑法204条)という事実が論理的に内包されている。殺人未遂の防御において「殺意」を否定しつつ「暴行や傷害」の事実自体を争うことは当然想定される範囲内である。したがって、起訴された殺人未遂の事実から殺意を除いた傷害の事実を認定することは、訴因の同一性の範囲内であり、被告人に不意打ちを与えるものではないといえる。よって、改めて訴因変更の手続きを経る必要はない。
結論
殺人未遂の訴因から、訴因変更なしに傷害罪を認定することは正当であり、適法である。
実務上の射程
本判決は「縮小認定」の典型例を示すものであり、起訴事実の中に含まれるより軽い犯罪を認定する場合には訴因変更が不要であることを明確にしている。実務上、強盗致傷から傷害への認定や、殺人未遂から傷害への認定など、重い罪名の構成要件が軽い罪名の構成要件を包含している場合に広く適用される。
事件番号: 昭和28(あ)1026 / 裁判年月日: 昭和30年10月18日 / 結論: 棄却
「被告人両名は共同して被害者某の足を蹴り顔面を殴打して同人に治療一週間を要する左眉毛部裂創並上下眼瞼皮下溢血腫張の傷害を与えた」との公訴事実に対し、訴因変更手続を経ることなく「被告人は被害者某の腰部を下駄ばきの足で蹴上げもつて暴行した」との事実を認定することは違法でない。