判旨
別個の罪による執行猶予付き判決が確定する前に犯された余罪については、たとえ一部の行為がその別件判決の言渡後にまたがる包括一罪であっても、刑法25条1項により重ねて執行猶予を言い渡すことができる。
問題の所在(論点)
執行猶予の言渡しを受けた者が、その判決の確定前に別の罪を犯していた場合(余罪)、その余罪について再び執行猶予を付すには、刑法25条1項と2項のいずれが適用されるか。特に、一部の行為が別件判決言渡後にまたがる包括一罪の場合に、執行猶予期間中の犯行として2項の厳格な要件が必要となるかが問題となった。
規範
刑法25条1項にいう「前項の規定により執行猶予の言渡しを受けた」罪と、刑法45条後段の併合罪の関係にある確定前犯罪(いわゆる余罪)については、再度の執行猶予の要件を定めた同条2項ではなく、同条1項に基づき執行猶予を言い渡すことができる。
重要事実
被告人は、昭和28年7月から10月にかけて3件の覚せい剤取締法違反(譲渡・所持)を犯した。その間の同年9月22日、被告人は別件の覚せい剤取締法違反罪で懲役8月、執行猶予3年の判決を受け、10月7日に確定した。本件のうち第3の所持罪は、別件の判決言渡の前後(9月20日〜10月1日)にわたる包括一罪であった。
あてはめ
本件の犯罪はいずれも別件の執行猶予判決が確定する前の犯行であり、別件の罪と刑法45条後段の併合罪の関係にある。第3の事実(所持)は別件判決の言渡前後を跨いでいるが、全体として包括一罪を構成し、かつ確定前の犯行である以上、執行猶予期間内に新たに犯された罪(25条2項)には当たらない。したがって、第1項に基づき執行猶予を言い渡すことが可能である。
結論
本件犯罪は執行猶予期間内に犯されたものではなく、既決の執行猶予判決と併合罪の関係にある余罪であるため、刑法25条1項により執行猶予を付した原判決は正当である。
実務上の射程
併合罪関係にある余罪について、1項による「二重の執行猶予」を認めた大法廷判決を追認したもの。答案上は、第1項の「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」には、判決確定前の併合罪の関係にある者も含まれる(執行猶予中であっても確定前なら1項適用)と解する際の根拠となる。
事件番号: 昭和31(あ)4748 / 裁判年月日: 昭和35年3月29日 / 結論: 棄却
昭和三一年一〇日頃譲渡したと認められた覚せい剤一、一〇〇本位および同年四月八日頃所持していたと認められた覚せい剤約二八一本が、同年一月初旬頃密造したと認められた覚せい剤約一、八〇〇本の一部であつたとしても、右譲渡および所持は、その方法態様において密造に当然随伴する行為とは認められないから、所論のように事後の処分行為と認…
事件番号: 昭和30(あ)1665 / 裁判年月日: 昭和31年1月12日 / 結論: 棄却
昭和二八年三月一〇日頃から同年六月末日頃までの間に接続して一一回に覚せい剤を譲受けた行為と、その覚せい剤の一部を同年七月一四日頃居宅炊事場の石油罐または土蔵内にそれぞれ隠匿所持していた行為とは、各別個の罪を構成し併合罪となる。