判旨
控訴審において、事実の取調べを行うことなく、第一審の執行猶予付き判決を破棄して被告人に不利益な実刑判決を言い渡すことは違憲・違法ではない。
問題の所在(論点)
控訴審において、独自に事実の取調べを行うことなく、第一審の執行猶予判決を破棄して実刑を科すことは、刑法および刑事訴訟法の原則に照らし許容されるか。
規範
控訴審は、事後審的な性格を有することから、みずから事実の取調べを行うことなく、第一審が認定した事実及び諸般の情状を記録に基づき再評価することができる。したがって、第一審判決が被告人に与えた執行猶予を破棄し、実刑を科すという不利益な変更を行う場合であっても、必ずしも改めて事実の取調べを行うことを要しない。
重要事実
被告人らは長野県条例違反等の罪に問われ、第一審において執行猶予付きの判決を受けた。これに対し、検察官が量刑不当等を理由に控訴したところ、原審(控訴審)は、みずから証人尋問等の事実の取調べを行うことなく、訴訟記録等の書面審理のみに基づき第一審判決を破棄。被告人らに対し、第一審よりも重い実刑を言い渡した。弁護人は、このような手続は適正手続に反し違法であると主張して上告した。
あてはめ
本件において、原審は第一審の公判廷における証言記録等の資料に基づき、量刑の判断を行っている。刑事訴訟法上、控訴審は第一審判決の当否を事後的に審査する性質を持つ。したがって、第一審が認定した事実関係を前提としつつ、その量刑判断が不当であると判断する場合、書面審理によって得られた心証に基づき、第一審よりも重い刑を科すことは、法の許容する範囲内である。本件の解散命令が警察署長の措置によるものである等の事実関係も証言によって明らかであり、手続上の違法は認められない。
結論
控訴審が事実の取調べをせず、第一審の執行猶予判決を破棄して被告人に不利益な実刑を言い渡しても、直ちに違法とはならない。
事件番号: 昭和30(あ)3957 / 裁判年月日: 昭和32年5月31日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】控訴裁判所が第一審判決の量刑不当を理由に被告人に不利益な自判を行う際、必ずしも自ら事実の取調べを行う必要はなく、訴訟記録等の調査のみで足りる。 第1 事案の概要:被告人A及びBは、監禁、傷害、公職選挙法違反等の罪で第一審において執行猶予付きの懲役刑を言い渡された。検察官は量刑不当を理由に控訴し、控…
実務上の射程
控訴審の事後審的性格を確認する裁判例。量刑判断において事実の取調べを必須としない実務の根拠となるが、答案上は、被告人の防御権や適正手続(憲法31条)の観点から、少数意見にあるような「事実の取調べの要否」を論じる際の見解対立の素材として用いる。
事件番号: 昭和37(あ)628 / 裁判年月日: 昭和37年10月9日 / 結論: 棄却
控訴裁判所が何ら事実の取調をしないで第一審判決より重い刑を科しても刑訴四〇〇条但書に違反しないことは、当裁判所大法廷屡次の判例とするところである。(昭和三〇年六月二二日言渡、刑集九巻八号一一八九頁以下、昭和三一年七月一八日言渡、刑集一〇巻七号一一七三頁以下、昭和三二年二月一五日言渡、刑集一一巻二号七五六頁以下の各大法廷…
事件番号: 昭和34(あ)2315 / 裁判年月日: 昭和35年5月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴裁判所が第一審の執行猶予判決を量刑不当として破棄し、事実取調べを行うことなく訴訟記録及び第一審の証拠のみに基づき実刑を言い渡すことは、刑事訴訟法400条ただし書及び憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:第一審裁判所が被告人に対し、懲役刑の執行猶予を言い渡した。これに対し控訴裁判所(原審)…