刑法第一九七条にいう公務員の職務とは、公務員または公務員とみなされる者がその地位に伴い公務または公務とみなされる事務として取扱う一切の執務を指称し、必ずしも贈賄者との間に指揮監督の関係があることを要しない。
刑法第一九七条にいう公務員の職務の意義
刑法197条,刑法198条,貿易公団法15条
判旨
賄賂罪における「職務」とは、公務員の一般的職務権限に属する事務のみならず、これと密接な関係を有する事務も含まれる。
問題の所在(論点)
公務員(またはみなし公務員)の本来の職務権限に属しない事務について、賄賂罪の「職務」性を認めることができるか。特に、契約上の履行補助者に過ぎない者に対する行為が「職務に関し」たものといえるかが問題となる。
規範
賄賂罪(刑法197条等)の構成要件である「職務」には、公務員の一般的職務権限に属する事務それ自体のみならず、当該事務と密接な関係を有する事務も含まれる。また、公団等の機関が契約上の権利を行使する行為は、一面において私法上の行為であっても、他面において法令上の権利行使としての性質を有する限り、同罪の職務に含まれ得る。
重要事実
食糧配給公団(判決文上は「公団」)の支所棉花課長である被告人Aは、輸入実務取扱業者から輸入実務の委託を受けた下請業者に対し、監督指導を行うなどの便宜を図った対価として、現金2万円を受領した。Aの本来の職務権限には、公団と直接の契約関係にない下請業者を直接監督指導することは含まれていなかった。弁護人は、下請業者への指導はAの職務に属さない私法上の関係に過ぎないと主張した。
あてはめ
本件における下請業者は、公団が輸入実務取扱業者と締結した委託契約上の義務に関する履行補助者である。公団と下請業者の間に直接の法律関係がない場合でも、下請業者は間接的に公団の委託契約上の権利に服する立場にある。したがって、Aが課長としてこれら業者を監督指導する行為は、Aの職務そのものには直接属しないとしても、その職務と密接な関係を有するものと認められる。また、公団による権利行使は私法上の側面と同時に法令上の権利行使としての側面を併せ持つため、その実務に関する行為は不法な報酬の対象となる職務性を有する。
結論
Aの下請業者に対する監督指導は、その職務と密接な関係を有する事務にあたり、賄賂罪の「職務」に該当する。上告棄却。
実務上の射程
「密接関係事務」の概念を確立した重要な判断である。答案上は、職務権限の有無を検討する際、一般的職務権限から外れる場合であっても、密接関連性を根拠に職務性を肯定するロジックとして用いる。私法上の契約に基づく事務であっても、公的な事務の遂行に関連する限り、本理屈を適用して職務性を肯定できる余地を広げた点に実務上の意義がある。
事件番号: 昭和27(あ)4871 / 裁判年月日: 昭和32年2月22日 / 結論: 棄却
一 繊維貿易公団神戸支所棉花課長は、法令上、神戸港における輸入棉花の引取、保管、輸送、引渡に関する輸入実務取扱業者(貿易庁の定める資格に該当し入札によつて繊維貿易公団のなすべき業務の委託を受ける輸入商社)と連絡し、必要な報告を徴しまたは実務処理の状況につき調査する等これを監督指導する職務を有していたものである。 二 右…