一 繊維貿易公団神戸支所棉花課長は、法令上、神戸港における輸入棉花の引取、保管、輸送、引渡に関する輸入実務取扱業者(貿易庁の定める資格に該当し入札によつて繊維貿易公団のなすべき業務の委託を受ける輸入商社)と連絡し、必要な報告を徴しまたは実務処理の状況につき調査する等これを監督指導する職務を有していたものである。 二 右輸入実務取扱業者の下請業者(荷役、倉庫、運送等の各業者)を監督指導することは右棉花課長の職務自体には属しないとしてもその職務と密接な関係を有し、同人の職務に関するものと解するのが相当である。
繊維貿易公団神戸支所棉花課長の職務
刑法197条,刑法198条,貿易公団法1条,貿易公団法15条,貿易公団法16条,貿易公団業務方法22条
判旨
公務員が行使する権利が、私法上の契約に基づく権利の行使という側面を有する場合であっても、それが同時に法令上の職務権限の行使と認められるときは、収賄罪にいう「職務」に含まれる。
問題の所在(論点)
公団職員が行う私法上の契約に基づく権利行使や監督指導が、刑法上の収賄罪における「職務」に含まれるか。
規範
収賄罪(刑法197条)の対象となる「職務」とは、公務員が法令に基づいて担当する事務をいう。公団職員が私法上の契約に基づき相手方を監督・指導する場合であっても、それが法令上の職権行為としての性質を併せ持つのであれば、当該公務員の「職務」に該当する。また、直接の職務自体に属しない行為であっても、本来の職務と密接な関係を有する行為であれば、職務に関連するものと解される。
重要事実
繊維貿易公団の神戸支所棉花課長であった被告人Aは、棉花の指定輸入実務取扱業者の指定や契約締結に関する業務を統括し、これら業者を監督指導する立場にあった。Aは、輸入実務取扱業者から賄賂を受領したとして収賄罪で起訴された。弁護人は、公団と業者との関係は対等な私法上の契約関係に過ぎず、Aによる監督指導は法令上の職務権限に基づくものではないため、収賄罪は成立しないと主張して上告した。
あてはめ
まず、公団の役職員は貿易公団法により政府職員とみなされ、同法及び公団業務方法に基づき、輸入実務取扱業者の指定や契約締結、連絡、調査、監督指導等の業務を法令上の職務として有していた。次に、被告人が契約上の権利を行使し業者を指導することは、一面において私法上の権利行使であるが、他面において法令上の職権行為としての性質を有する。したがって、私法上の契約関係であることをもって職権行為性を否定することはできない。また、直接の契約関係にない下請業者に対する指導についても、委託契約上の義務履行の補助者を監督するものである以上、本来の職務と密接な関係を有する。ゆえに、被告人Aの行為はいずれもその「職務」に関してなされたといえる。
結論
被告人の行為は「職務」に関するものとして収賄罪が成立し、有罪とした原判決は正当である。
実務上の射程
本判決は、公務員の職務が私経済的・私法的な外観を呈する場合であっても、背後に法令上の根拠があり、公務の適正への信頼を害する実態があるならば「職務」に含まれることを明示した。答案上は、職務権限の有無を判断する際、単なる形式的な契約関係の有無にとどまらず、法令の規定(設置法や職制規程等)を遡って検討すべきである。
事件番号: 昭和32(あ)1490 / 裁判年月日: 昭和32年11月21日 / 結論: 棄却
大蔵事務官として南九州財務局長官官房総務課文書係である者は、同財務局(理財部金融課)の行う金融機関の業務および財産の検査についても、その日時の事前内報をしてはならない職務を有する。