判旨
職業安定法5条にいう「雇用関係」とは、民法上の雇用契約に限られず、広く社会通念上、被用者が有形・無形の経済的利益を得て、一定の条件の下で使用者に労務を供給する関係を指す。
問題の所在(論点)
職業安定法5条(現行法4条等参照)にいう「雇用関係」の意義、および売淫等を伴う特殊な契約関係が同条の雇用関係に該当するか。
規範
職業安定法における「雇用関係」は、厳格に民法623条の定義にのみ拘束されるものではない。広く社会通念に照らし、被用者が有形または無形の経済的利益を得ることを対価として、一定の条件の下に使用者に対して肉体的または精神的な労務を供給する実態があれば、同法上の雇用関係に該当すると解するのが相当である。
重要事実
被告人は、喫茶店兼待合営業を営む業主らに対し、接客婦を供給した。接客婦らは、業主の喫茶店で客を接待し、その後に待合で売淫を行うことを主眼としていた。業主は、接客婦に宿舎を提供し、売淫料から一定額を「席料」として徴収し、残額を報酬として接客婦に支払う合意をしていた。この関係が職業安定法上の「雇用関係」に基づく職業紹介・労働者供給に該当するかが争点となった。
あてはめ
本件における接客婦らは、業主が提供する喫茶店という場所で客を誘引・接待し、さらに宿舎の提供を受けるという経済的利益を得ている。これに対し、接客婦は業主の経営施設内で客への接待という労務を提供し、売淫料の一部を業主に収得させている。このような関係は、たとえ売淫という特殊な業務内容を含んでいたとしても、社会通念上、経済的利益の提供と対価的な労務供給の関係が認められる。したがって、民法上の典型的な雇用契約の形式をとっていなくとも、同法上の雇用関係にあると評価できる。
結論
本件業主と接客婦との間の関係は、職業安定法上の雇用関係に該当する。したがって、これを取り持った被告人の行為は同法違反を構成する。
実務上の射程
労働法上の「労働者性」や「雇用関係」が問題となる事案において、形式的な契約書面や民法上の定義に縛られず、経済的対価性と労務供給の実態(指揮監督下の労務提供の広義の解釈)を重視して判断する際の基礎となる判例である。公序良俗に反するような業務内容であっても、実態として労務供給が行われている限り、規制法上の雇用関係を否定できない点に射程が及ぶ。
事件番号: 昭和27(あ)3626 / 裁判年月日: 昭和29年3月11日 / 結論: 棄却
職業安定法第五条にいわゆる「雇用関係」とは、必ずしも厳格に民法第六二三条の意義に解すべきものではなく、広く社会通念上被用者が有形無形の経済的利益を得て一定の条件の下に使用者に対し肉体的、精神的労務を供給する関係にあればたりるものと解するのを相当する。