判旨
弁護士から差押標示木札を除去しても差し支えない旨を言われたとしても、その一事をもって直ちに仮処分の無効や除去の適法性を誤信したと認めることはできず、故意は阻却されない。
問題の所在(論点)
弁護士の助言を信じて差押標示を除去した場合に、公務員が施した封印等の無効を誤信したといえるか(故意の阻却の有無)。
規範
刑法38条1項の「罪を犯す意思」の存否に関し、法律の不知や自己の行為を適法と信じた点について相当な理由があるか否かは、単に専門家(弁護士等)の助言があったという事実のみならず、諸般の事情に照らして客観的に誤信が生じ得る状況であったかにより判断される。
重要事実
被告人が、執行官によって設置された差押標示木札を除去したことにより、封印等破棄罪(刑法96条)等の成否が問題となった事案。被告人は、当時板谷弁護士から「本件木札を除去しても差し支えない」との言動を受けたことを根拠に、当該仮処分が「無効」である、あるいは除去行為が「適法」であると誤信していたため、故意が欠如すると主張した。
あてはめ
原審の認定によれば、たとえ弁護士から除去可能との示唆があったとしても、その一事によって直ちに被告人が仮処分を無効と誤信した、あるいは除去を適法なものと誤信したと認めることはできない。すなわち、差押という公権力的執行の効力を、単なる弁護士の個人的見解のみに基づいて否定することは、社会通念上の相当性を欠き、故意を阻却するに足りる「誤信の事実」があるとは認められない。
結論
被告人に誤信の事実は認められず、本件行為に故意が認められるため、上告は棄却される。
実務上の射程
封印等破棄罪や強制執行妨害目的罪において、弁護士等の助言を盾に「違法性の意識の欠如」や「事実の錯誤」を主張する場面での反論として機能する。単なるアドバイスの存在だけでは足りず、事実関係全体から見てその誤信が不可避といえるレベルでなければ故意は阻却されないことを示す。
事件番号: 昭和37(あ)610 / 裁判年月日: 昭和39年2月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】執行吏代理が仮処分の執行としてなした公示表示の効力について、原審の判断を相当として上告を棄却した判決である。 第1 事案の概要:被告人が昭和27年8月4日に執行吏代理Aによってなされた仮処分の公示に関する不法行為(またはそれに付随する犯罪行為)に問われた事案において、当該公示の法的効力や手続の適法…